四 人形の話───四季揺籃

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「──それで、此処か」  暁生の言葉に、「うん」と透雨は頷いた。  翌朝になって。三人が揃って物置き部屋にいた。  店舗とは暖簾(のれん)で隔てて奥、お客様からは見えない位置にある部屋だ。透雨にとってはよく出入りする所でもある。  春依が振り返って、 「その、女の子ってさ、〝あっち側〟の······だよね。透雨は何だか予測ついてたりする?」 「んん······多分だけど、〈四季揺籃(シキヨウラン)〉シリーズの子じゃないのかなって······。昔にうちに引き取られて、保管されてあるはず······だから、昨日逢ったのは〝魂〟の方で、彼女の本体の方は何処かで収蔵されて眠っていると思う」 「透雨と暁生は、最近この部屋の整理してたんだよね。その時何か──特別妙なモノとか······」 「うーん······まだ整理しきれてない所にあると思うんだよね······。彼女が伝えに来たのも、此処を最近になって整理し始めたからだと思うし」 「()(ほど)······」と頷く春依に。 「······なんでお前、透雨にばっかり訊くんだよ?」 「······透雨の方が話が確実かなって」 「······異論もございません」  暁生が口を(つぐ)んだ。  ──昨日のことというのは、つまりは透雨のであった訳だが。  それについて、兄二人は問い掛けない。  昔からよくある事なのだった。  兄達には一度もないらしいが、透雨は、こういう夢の中で何かから語りかけられるのはよくあった。 「でも······そうなると、『みつけて』っていうのは具体的には何を見つけ出せばいいんだろう」 「大切な······子······っつったか? 色々抽象的過ぎて見当も······」 「あ、見当はついてる」  透雨が言うと、二人は「「 まじ?」」と振り向いた。驚きに彩られた目が透雨を見つめて。 「〈四季揺籃〉という〝人形〟は四体あってね。それでひとセットなんだ。だから同じく〝人形〟を──彼女のお仲間を捜せばいいのかなって」 「そうなのか······」 「いやぁ······透雨に話が伝わってて正解だよね······。俺達が仲介しても、今頃話がややこしくなるだけだよ······」  下手すりゃ迷宮入りだな、と相槌を打った暁生は、眼前へと目を戻し。次に発せられた言葉は、しかしやや気の進まなさそうなものだった。 「で············この中から捜すのか」  一方の壁一面を埋める飴色の棚。二十の仕切りを持つそれが三つ並んでいる。  というと、三人いるのだから簡単に捜せるな、と思われるかもしれない。  が、これは棚の区切りが二十というだけで、実際にはそのひとつひとつにこれでもかと、様々なこの世ならざるモノが詰め込まれている。  天井近くまである様は、(そび)え立っているという光景に見えた。  さしもの春依も億劫そうで、 「······数日前で三分の一片付いたって言ってたよな」 「······しかもひとつの棚の内の三分の一だぜ」 「······こ、こりゃあ掛かるわー」 「え? 物置(ここ)になかったら二階の方を捜すことになると思うよ?」  きょとんとした透雨の台詞(せりふ)に、二人はげんなりといった空気で沈黙した。
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