四 人形の話───四季揺籃

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 暁生が、お盆片手に戻ってきた。 「ん。リクエストにお応えして塩むすび。海苔(のり)は巻いたけど。······夕飯の方で少しは豪勢にするから我慢してくれ」 「十分だって。暁生は手際良いし器用なくせに、雑なんだよなぁ」 「結局(けな)してるだけじゃねーか」  ひとり二つずつのおむすびは、物置きでの作業の掛かり具合を考えて、予め朝にご飯を炊いておいた温かいものだ。 「······お茶まで。有難う」 「この緑茶······深蒸(ふかむ)し煎茶だよな。なんでうち······お茶だけ良いの揃ってるんだ」 「代価でお茶置いてく(やつ)がいるからな」  ひとり分ごとに載せられたお皿と湯呑みを手に取り、壁際に座って、食べ始める。  (しばら)くは無言が続いたのだが。 「······なあ、実は外に持ち出されてるってことはないのか」  ぐいっと流し込むように湯呑みを傾けた暁生が、あちこちで山を作っているモノたちを睨んで言った。 「俺達の知らないうちに?」 「そう」 「でも、資料にはなかったよ」と透雨。「何処かに移したとか、誰かに渡したとか、一言も······」 「資料にないだけなんじゃ?」  ······そう言われると。透雨としても、重ねて断言はし(にく)い。これまで数々の資料をもとに対応してきたけれど、記入漏れというのが全くなかった訳ではないのだ。 「でも······そうなると、ずっと昔に何処かに譲渡したってことになるよ。四体のうち、一体だけを。アレは持ち主を必要とするから、ひとりでに別の人のもとへ行かないし。それに、あの子は『みつけて』って言ってたから、まだ此処にあるんじゃないのかなぁ······」  夢のことを思い出しながら、透雨は言う。 「······一緒にいたのにいなくなっちゃうのは、寂しいし悲しいよ」  ──見つけたい。ちゃんと。 「とりあえず、さ。此処を捜し切ろうよ」  春依が透雨へと笑いかけ、次いで「良いだろ、暁生?」と振り向く。 「()ずは物置き集中、一日でできなかったら二日目と引き続きになるし、更に二階の方まで捜すかもしれないけれど、俺達基本暇じゃん」 「······つーか······今頃気付いたけど、二階の方が混沌と化してるかもしれねーぞ」  ああ······と透雨と春依はやや遠い目になった。手つかずは、この部屋だけじゃない。  手早く昼食を済ませると、三人は再び作業に取りかかった。
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