四 人形の話───四季揺籃

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 また手を動かし始めてから、十分程経っただろうか。 「──あっ」  とある箱を開けて、透雨が()らした声に、 「あった!? 」「あったか!? 」  と妙に食いつき良く二人が覗き込んできた。  透雨は持っていた蓋を置き、 「この子だよ。──『みつけて』って言った子」  透雨の夢の中で語りかけてきた子だ。兄二人は箱の中を見て息を呑むように、 「······思ったより大きいな······」 「これ、本当に人形なんだよな······?」  ──小さな子どもが、膝を抱えて横たわっている。  敷かれた純白の布の上。白磁のように清く滑らかな肌と、艶のある黒髪や睫毛。その身に纏っている衣服は少しの褪色(たいしょく)もない。  そして最も我が目を疑うのは······縫い目や()ぎ目が無いこと。  入り込んでしまった子どもがそのまま眠っているかのようだ。起こせば起きるのでは······。 「制作者は不明なんだけど、月虹蝶(げっこうちょう)の糸で作られているらしいんだよ」 「······ってあの、満月の晩に彼岸(あちら)の岸辺で舞うという」 「そう」 「······なんで春依(おまえ)、知ってんだよ」 「それぐらいは俺も知ってますー」  透雨はじいっと〝人形〟を見つめると、ホッと安堵の息を()いた。 「······良かった。秋羽(アキハ)ちゃんは何ともないみたいだね」  春依がぱちぱちと目を(しばたた)かせた。 「······アキハちゃん?」 「この子の名前だよ。〈四季揺籃(シキヨウラン)〉はその名の通り、日本の四季をモチーフにして作られてるんだ。この子は秋だから〝秋羽〟ちゃん。それぞれ名がついていて。 〈四季揺籃〉は子どもを授かった家に贈られるもので、悪いものから遠ざけてくれるらしいんだ。『春と夏』、『秋と冬』でセットになっていて、春と夏は男の子の〝人形〟なんだよ。今うちにあるのは秋と冬だけみたい」 「······透雨は本当に詳しいね······」  と、春依の表情がとまる。 「そうか、じゃあ、彼女が『みつけて』って言ったのは······」  透雨は頷いた。
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