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また手を動かし始めてから、十分程経っただろうか。
「──あっ」
とある箱を開けて、透雨が洩らした声に、
「あった!? 」「あったか!? 」
と妙に食いつき良く二人が覗き込んできた。
透雨は持っていた蓋を置き、
「この子だよ。──『みつけて』って言った子」
透雨の夢の中で語りかけてきた子だ。兄二人は箱の中を見て息を呑むように、
「······思ったより大きいな······」
「これ、本当に人形なんだよな······?」
──小さな子どもが、膝を抱えて横たわっている。
敷かれた純白の布の上。白磁のように清く滑らかな肌と、艶のある黒髪や睫毛。その身に纏っている衣服は少しの褪色もない。
そして最も我が目を疑うのは······縫い目や接ぎ目が無いこと。
入り込んでしまった子どもがそのまま眠っているかのようだ。起こせば起きるのでは······。
「制作者は不明なんだけど、月虹蝶の糸で作られているらしいんだよ」
「······ってあの、満月の晩に彼岸の岸辺で舞うという」
「そう」
「······なんで春依、知ってんだよ」
「それぐらいは俺も知ってますー」
透雨はじいっと〝人形〟を見つめると、ホッと安堵の息を吐いた。
「······良かった。秋羽ちゃんは何ともないみたいだね」
春依がぱちぱちと目を瞬かせた。
「······アキハちゃん?」
「この子の名前だよ。〈四季揺籃〉はその名の通り、日本の四季をモチーフにして作られてるんだ。この子は秋だから〝秋羽〟ちゃん。それぞれ名がついていて。
〈四季揺籃〉は子どもを授かった家に贈られるもので、悪いものから遠ざけてくれるらしいんだ。『春と夏』、『秋と冬』でセットになっていて、春と夏は男の子の〝人形〟なんだよ。今うちにあるのは秋と冬だけみたい」
「······透雨は本当に詳しいね······」
と、春依の表情がとまる。
「そうか、じゃあ、彼女が『みつけて』って言ったのは······」
透雨は頷いた。
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