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直ぐそこに、冬霞の箱を覗き込む秋羽の姿があった。
じっと片割れを見つめていた彼女は、透雨へ振り向いた。
あ、これは、本物じゃなく──
あの夜を思い起こさせる、一度の瞬きも無い瞳。人形だから表情は動かないけれど。
──驚いている透雨に、声が響いた。
『ありがとう』
すうっと、その姿は消えてしまった。
暫く座り込んでいた透雨は、そうっと秋羽の箱を覗いた。······彼女は変わらずそこにいた。身動きした様子は、ない。
兄達を窺うも、普段通り賑やかに軽口を叩き合いながら棚の方を向いていて、彼女の声が聞こえていたり、箱を覗いていた姿を見たりした感じはない。
ひとり、瞬きした透雨は、そっと心の中に呟きを落とした。
······よかった。
彼女の望みを、叶えてあげることができた。
少しは、兄達の力になれた。
ふたりが一緒におさまる大きな箱を、と二階へ探しに行った透雨を見送り。
片付けていた暁生は、ふと手を止めて、
「······俺らよりよっぽどすげえんだけどな」
その言葉に、春依が静かな苦笑を返す。
「······まあ、透雨の人見知りは、能力の所為もあるからな」
元々大人しかった子なのだけども。
昔はもうちょっと、外に出てきて話せる子だった。
「······それでも、前よりよくなったと思うよ」
「 ······ 」
三人はそれぞれ異なる能力を持つが。
あまりに違い過ぎる故に、暁生と春依は、透雨の苦労や辛さのすべてに寄り添えない。
──違うから、で済ませるつもりはないけども。
「暁生······話は変わるんだけど······この部屋にあるやつさ、昔の記録と照らし合わせると、いくつか見当たらないの出てくるんだよね······」
「おいおいおい······」
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