四 人形の話───四季揺籃

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 直ぐそこに、冬霞(トウカ)の箱を覗き込む秋羽(アキハ)の姿があった。  じっと片割れを見つめていた彼女は、透雨へ振り向いた。  あ、これは、じゃなく──  あの夜を思い起こさせる、一度の瞬きも無い瞳。人形だから表情は動かないけれど。  ──驚いている透雨に、声が響いた。 『ありがとう』  すうっと、その姿は消えてしまった。  (しばら)く座り込んでいた透雨は、そうっと秋羽の箱を覗いた。······彼女は変わらずそこにいた。身動きした様子は、ない。  兄達を窺うも、普段通り賑やかに軽口を叩き合いながら棚の方を向いていて、彼女の声が聞こえていたり、箱を覗いていた姿を見たりした感じはない。  ひとり、瞬きした透雨は、そっと心の中に呟きを落とした。  ······よかった。  彼女の望みを、叶えてあげることができた。  少しは、兄達の力になれた。  ふたりが一緒におさまる大きな箱を、と二階へ探しに行った透雨を見送り。  片付けていた暁生は、ふと手を止めて、 「······俺らよりよっぽどすげえんだけどな」  その言葉に、春依が静かな苦笑を返す。 「······まあ、透雨の人見知りは、能力(ちから)の所為もあるからな」  元々大人しかった子なのだけども。  昔はもうちょっと、外に出てきて話せる子だった。 「······それでも、前よりよくなったと思うよ」 「 ······ 」  三人はそれぞれ異なる能力を持つが。  あまりに違い過ぎる(ゆえ)に、暁生と春依は、透雨の苦労や辛さのすべてに寄り添えない。  ──違うから、で済ませるつもりはないけども。 「暁生······話は変わるんだけど······この部屋にあるやつさ、昔の記録と照らし合わせると、いくつか見当たらないの出てくるんだよね······」 「おいおいおい······」
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