五 夏のはじめの話───我らが店の常連さん

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 しとせ屋は、その日······も、ぼちぼちの入りだった。  開店して直ぐの妖狐のふたり連れと、一時間程経ってからの木精(ドライアド)に、二時間程空いてからの猫又──。  それからは、ぱったりと客足が途絶えた。  しとせ屋ではすっかり「まあいつものことだ」という意識が定着しており、焦る気配は湧き起こらず、昼を経た今は、閑散した空気が広がっていた。  のんびりしていた。  天気がいいのも相俟(あいま)って、のどかな静けさだった。  ──と、そこに。  また新たにやって来たのは······。 「こんちはー」  やや癖のある黒髪に、少々吊りめの双眸(そうぼう)。  袖をまくった白のワイシャツとグレーのズボンは、何処かの制服のようで。肩には紺の鞄が掛かる。  彼の名は、(つげ) 統理(とうり)。  近くの桜場(さくらば)高校に通う一年生。  どこからどう見ても、誰が見ても、まったくの人間である。
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