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「おい、春依。今日来るって妖狐からの予約入ってなかったか?」
「とっくに来たよ。暁生はその頃二階にいて気付かなかったんだろ」
春依がテーブルの上にあった紙をひらりと見せる。来客······顧客名簿なのだろうか?
「······来るって分かってるヤツが来たら、後はもう分からんな」
「それでもいつもより来てる方だよ。今年は氏神参りがあるから」
のんびりお茶を飲んでいた統理は、顔を上げた。
「······うじがみまいり?」
聞き慣れない言葉に問い返せば、「ああ」と春依がこちらを見る。
「三年に一度ある、あやかしや人外のお参りだよ。帳ノ宮の土地一帯のあやかしや人外が、氏神さまの元へ参るんだ。簡単な言い方になるけど、帳ノ宮で一番偉い神様だから。『今までの加護を有難うございます。これからもその恩恵をお与え下さい』という感じで願うんだって」
暁生からは警戒されているが、春依はふつうに話してくれる。
統理は首を傾げた。
「神様が、神様のお参りすんの?」
──あやかしや人外って、位の差はあれど、そもそもそのほとんどが様々な恩恵を与えてくれる神様なのだ、と聞いたことがある。無論、此処で得た知識だ。
「うーん······」
春依はおもむろに、開け放たれた入り口──外を指差した。
「この町の中心地に、広大な桜の森があるんだけどさ。かつて──はるか昔はそこに、大きなお社があったんだよ。数多のあやかしや人外のみならず、勿論人間にも、畏敬の念を抱かせていたんだって。──って、そう聞いたことがある」
「ふぅーん······」
それだけ格が違う、ということだろうか。
「まあ当人──当神様?は一番古いだけだって言ってるけどね。頼りにされても大して力はないって」
「へぇ······」
と統理は頷き。
「······なんか、知り合いみたいに言うんだな。氏神さま······のこと」
そう言うと、春依は苦笑を滲ませた。なんだか、とても、意味ありげに。
「で、お参りするあやかしや人外が、その道中、ついでに此処へ寄ってくれるんだ。ある意味俺達も恩恵受けてる、って感じ」
「······ついでってお前······。うち一応常連いるだろ。昔から贔屓にしてくれるのもいるし」
顔をしかめて、暁生が口を挟んだ。聞き捨てならなかった模様。
「でもほら、うちのいちばんの稼ぎ時じゃん。そこが」
「言っとくけどその大半はお前らが無償でやっちまう所為だからな······」
ほそーい目を向けられた春依は、へらりと笑って躱すだけだ。
「まあまあ、今ちょうど誰も来ないしさ──」
春依が入り口へと歩む。(透雨はいつの間にか暁生の後ろだ)
店の戸が閉められて。
「──この時間にアレ、やっちゃおうか」
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