五 夏のはじめの話───我らが店の常連さん

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 春依だけが店の奥へ戻り、数分して出て来る。  すると、何やら布に包まれたものを抱えていた。  グラスを横に置き、統理は興味深く見つめる。出て行けとは言われないので、自分が居ても問題はないのだろう。······もっとも、別の意味で暁生から度々言われているのだけど。  ごちゃっとしたテーブルの上を暁生が片付けて、そこに包まれたものが載せられる。  春依が、布を取り払った。 「······ん?······」  統理は身を乗り出した。だけでなく、テーブルに近づいた。じいっとソレを凝視する。  ······灯り、なのだろう。角灯(ランタン)だと思う。  断言できないのは、色々と奇妙だからだ。  細いフォルムのそれは、持ち手や上下の枠組み、台座が黒く、──あとは。  光源を囲っている筈の硝子(ガラス)が存在しない。見て分かり(にく)い程薄いものなのかと思ったが、無いのだ。なので持ち手や枠が浮いているかのよう。  そして、そもそも光源がない。空っぽだ。 「これは······?」  春依が答えた。 「これは〈幻夜(よあかり)〉。夜道に現れるんだよ。人間の前だけに出て来てね、いい人間だったら道案内してくれるんだけど、悪い人間だったら迷わせちゃうんだ。······だよね? 透雨」 「──あ、うん」  確認の声に、暁生の後ろから慌てて頷く彼女。 「そ、その裁量はいったい······」  ちょっと理不尽なヤツじゃないだろうか。だって、いいと悪いの判断って······。 「コイツの調子を、なおしてやらなきゃいけないところだったんだよね」 「ふぅん······」  改めて見てみれば、確かに。  灯り全体を取り巻く、モヤッとしたものがあるのが分かった。  ──統理は、邪気が視える人間である。  (もや)(すす)のような見え方で、はっきりとはしないのだけども。
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