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春依だけが店の奥へ戻り、数分して出て来る。
すると、何やら布に包まれたものを抱えていた。
グラスを横に置き、統理は興味深く見つめる。出て行けとは言われないので、自分が居ても問題はないのだろう。······もっとも、別の意味で暁生から度々言われているのだけど。
ごちゃっとしたテーブルの上を暁生が片付けて、そこに包まれたものが載せられる。
春依が、布を取り払った。
「······ん?······」
統理は身を乗り出した。だけでなく、テーブルに近づいた。じいっとソレを凝視する。
······灯り、なのだろう。角灯だと思う。
断言できないのは、色々と奇妙だからだ。
細いフォルムのそれは、持ち手や上下の枠組み、台座が黒く、──あとはない。
光源を囲っている筈の硝子が存在しない。見て分かり難い程薄いものなのかと思ったが、無いのだ。なので持ち手や枠が浮いているかのよう。
そして、そもそも光源がない。空っぽだ。
「これは······?」
春依が答えた。
「これは〈幻夜〉。夜道に現れるんだよ。人間の前だけに出て来てね、いい人間だったら道案内してくれるんだけど、悪い人間だったら迷わせちゃうんだ。······だよね? 透雨」
「──あ、うん」
確認の声に、暁生の後ろから慌てて頷く彼女。
「そ、その裁量はいったい······」
ちょっと理不尽なヤツじゃないだろうか。だって、いいと悪いの判断って······。
「コイツの調子を、なおしてやらなきゃいけないところだったんだよね」
「ふぅん······」
改めて見てみれば、確かに。
灯り全体を取り巻く、モヤッとしたものがあるのが分かった。
──統理は、邪気が視える人間である。
靄や煤のような見え方で、はっきりとはしないのだけども。
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