五 夏のはじめの話───我らが店の常連さん

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 腕を組んだ暁生が、 「······この感じだと、春依の方か」 「ん、その方がいいだろうな」  頷いた春依は、そのまま。  とんとん、と、〝灯り〟に触れた。  寝た子を起こすみたいに。  すると、温かな蝋燭(ろうそく)の火が(つい)え、また灯されるように──。 「······えっ······うわ······!」  比喩ではない、ともいえるだろう。  店舗の中に、夜が降りていた。  プロジェクターやプラネタリウムのような、そこに映し、あらわしたというレベルではない。外はまだ明るいというのに、それが見透かせない暗さだ。  星らしき無数の光が瞬いている。  自分達や当の灯りは不思議なくらい見えて──それ以外は無限の夜。  ······急に宇宙に放り出されたら、こんな感じだろうか。  驚いているのは統理だけだが、とりあえず、非常事態でないのは分かった。  目を戻すと、春依が〝灯り〟の上に手を置いていて、そっとその瞼が閉じられる。  フワリと、白い光が〝灯り〟を包んだ。  ああ──春依の能力(ちから)の『浄化』かと、もう知っている統理は思った。  この夜闇で、光はより強く感じる。  目を細めて見つめているうちに、ゆっくりと、光が小さくなっていき、輝きも弱まっていって──  そのまま夜に融けるように、儚く消えてしまった。  一瞬の間。春依のまとっていた空気が和らいで、 「よし」  ふっ、と、
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