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久しぶりに開けた扉から、懐かしいものが出て来た。
探していたものとは、違うものだけれど。肝心の探し物は、見当たらない。
ボールだ。
あの日一度だけ、君とキャッチボールをしたボール。
君が来るからと、慣れないスポーツ用具エリアに買いに行った。
わたしのボールに、君は走り回っていた。
わたしは、まるでボールと踊っているみたいだった。
「やっぱりね」
君は笑っていた。
ピカピカのボールを見て、二、三度宙に舞わせた君は、わたしの頭をくしゃくしゃに撫でながら笑った。
わたしはその笑顔に、やっぱり買ってよかったと思った。わたしが舞わせたのはスカートの裾で、君はあんなに空高くボールをあげてくれたのに。
少し肌寒くなったころ、ボールと一緒に缶コーヒーを渡してくれた。この熱が冷めないでほしいと、まだ熱が残る頬に当てながら思った。熱い…と呟きながら。その瞬間、吹き出した君。
「火傷するなよ」
探しものは見つからなかったけれど、ひどく懐かしい想いを見つけたと、夕日を見たときのような気持ちで扉を閉める。
今夜はカレーにしよう。君が好きなジャガイモいっぱいの。
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