目標

4/12
6人が本棚に入れています
本棚に追加
/80ページ
「毎日あんたらも飽きないね」 さっき鬼の形相をしていた千香は、呆れたような顔をしていた。 千香こと如月千香(きさらぎちか)は、幼稚園から一緒の友達だ。一応。 とっても現実主義者で冷静沈着。 「あいつが悪いし」 ぜんぶあいつが悪い。 毎日毎日、ことあるごとにからかってくる。 「どっちもどっちでしょ」 「いーや、あいつが120パーセント悪い」 肩をすくめた千香に、あたしははっきりと断言する。 あんな耳元で怒鳴るから。 鼓膜破れたら、どうしてくれんの。 「そこまで思うくせに、なんで好きなの?」 千香が放った一言は、脳天に強烈な一撃をくらわした。 一瞬で頬の熱が上がって、即座に千香の口を塞ぐ。 「だれかに聞かれたら、どうするの!?」 小声で抗議すると、冷めた目をした千香があたしの手首を掴んで、口元から剥がす。 「大丈夫。聞いたって利益ないし」 「そういう問題じゃない!」 「耳元で叫ばないでよ。うるさい」 あたしの抗議に迷惑そうに見つめて、耳を塞がれる。 「~~~~」 行き場のなくなった怒りに耐えながら、千香をみると、もちろん感情のない瞳があたしを迎えてくれた。 千香って、どうしてこんなに冷たいの。 昔はここまでじゃなかったと思うんだけどな。 「そういう風に育てられたからだよ」 「人の心を勝手に読むな!」 「遥ってほんとわかりやすいからね」 あたし、なんで友達してるんだろ。 「幼稚園の時からの腐れ縁」 「うるさいな。いわれなくてもわかってる」 「じゃあ疑問に思わないで」 「その前に」 「人の心を読むな。でしょ?」 わかってんなら読むな!! 「もう掃除しよう。掃除」 構うのはやめた。 ほうきを持ち直して、掃除を開始した。 床をはきながら、視線はまたヤツのほうへ。 藤崎は友人の桐野とじゃれながら話していた。 『そこまで思うくせに、なんで好きなわけ?』 千香の言葉が脳裏に蘇る。 好き、という言葉で自分の言葉を表されると、いまだに照れてしまう。 その感情の名前に、 この気持ちの正体に、 あたし自身がまだ、慣れていない。 自分で考えて頬が熱くなるのを感じて、無心で掃除を進める。 ……なんでって、いわれても。 正直、あたしにもわからない。 特別かっこいいわけでも、勉強ができるわけでも、スポーツ万能なわけでもない。 いつも喧嘩ばっかりで、口も悪いし。 いいところなんて、一つもいえない。 悪いところなら、やまほどいえるのに。 それなのに、なんで好きかって? そんなの、あたしにもわからないよ。 あたしがあたし自身に聞きたいくらい。 でも、好きなんだと思う。 いつから好き。なんて、知らない。 この気持ちを自覚した時には、もう後戻り出来ないくらい好きだった。
/80ページ

最初のコメントを投稿しよう!