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自覚したのは、たぶん。
藤崎のサッカー部での最後の試合。
サッカー部に彼氏がいる子に誘われて見に行った試合で藤崎が初めてサッカーをしているところをみた。
目ざましい活躍をしているわけではなかったけれど、いつもの言い合いをしている藤崎と違う、真剣な眼差しでコートを駆け回る藤崎からあたしは目が離せなかった。
チームが負けそうになったときも、一番大きな声を出してチームの士気をあげようとしたのも藤崎なのが印象的で。
結局その試合は負けてしまったけど。
負けたあとの悔しそうな顔と泣いている姿があたしの脳裏に焼き付いて、しばらく頭から離れなかった。
次に教室であった時は、いつもの藤崎だったけれど、変わったのはあたしだった。
藤崎を目で追ってしまう。
藤崎といたらどきどきする。
一人になると、つい藤崎のこと、考える。
藤崎に声をかけようとすると、無駄に心拍数が上がって頭が真っ白になる。
藤崎があたしの名前を呼ぶだけで、心が踊ってしまう。
そんなことが重なって、あたしは認めたくなかったけれど、ついに認めてしまった。
あたしは、藤崎が好きなんだって。
もしこれが恋じゃなかったら、あたしは病気だ。
不思議だよね。
あたし自身のことなのに、あたしが知らない間にいつのまにか、種が植えられて、それが育って、実ってるんだから。
「いった!」
突然小気味いい音とともに、頭に衝撃が走る。
何かで殴られたっぽくて、後ろを振り向くと、ほうきを出している藤崎の姿。
どうやらほうきではたかれたらしい。
「ふぅーじぃーさぁーきぃー」
地味に痛みを強調する頭をおさえて、藤崎を睨みつける。
きっとそのときの形相は、それはそれはひどかったと思う。
好きな人に見せるものでもないような。
その証拠に藤崎の隣にいた桐野は見てはいけないものをみたように目を逸らしている。
藤崎はそんなあたしに慌てたふうもなく、ふん。と鼻を鳴らす。
「掃除、さぼんなよ」
その言葉が耳に届いた瞬間に、ぷちんとなにかが切れて、思わず藤崎の胸ぐらを掴んだ。
「あんたねー、何度も言うけど、もっとほかの方法がないわけ? ほうきで頭たたくなんて、どうかしてる!」
「お前が掃除せずに、ぼー。とつったってるのが悪いんだよ!」
「はあ? 桐野とじゃれあいながら掃除してた人にいわれたくないんですけど!!」
「俺らはちゃんと手を動かしてたよ。お前は今ぼーとしてただろ」
「だからってねえ、普通に声をかけるってできないわけ?」
言い合っていると、あたしと藤崎の前をスっとほうきの柄が通った。
あわてて顔を引いて、ほうきの柄の先を見れば、千香があたしたちを睨んでいた。
「どっちが悪いとかそんなのあとでいいから、とっとと掃除して」
吐き捨てられた言葉の裏に絶対的な威圧感。
……触らぬ千香に祟りなし。
一瞬藤崎と視線を合わせると、同じことを思っていたようで。
放せ、と目で訴えかけてきたので、藤崎を放した。
「掃除掃除」
藤崎は何事もなかったかのようにそういって、さっさと退散した。
あたしも何も言わずに、再開する。
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