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背後霊をみる方法
始業前の六年二組の教室。
いつも、授業が始まる直前に登校する生徒が多いが、この日は珍しく全員が揃っていた。
「机を動かして、教室の中央を開けてくれ。そして、椅子を置く」
俺は、てきぱきと作業の指示を出した。
「春樹、教室でこんなことやって大丈夫か?」
小柄でやせっぽちの直人が、怯えた顔で問いかけてきた。
「みんなでやろうって、決めたことだろ。今さら、怖気づいたのか?」
校内で流行っている「背後霊をみる方法」。それをやろうとしているのだ。
「そうだよ。昨日、みんなで決めたじゃん。大丈夫だって。授業開始までまだ時間があるから、それまでに元通りにすれば」
学級委員の理沙が、瞳を輝かせる。
学級委員といえば、眼鏡で真面目と相場が決まっているが、理沙は正反対だ。くだけているというか、適当というか。
そんなアバウトさが、クラスの支持を得ているポイントなのかもしれない。
「でも……」
直人は渋々といった感じで、机の移動を手伝った。
教室の中央に空きスペースが作られ、椅子が一つ置かれた。
「鏡は?」
「私が持ってきた。ちょっと小さいかもしれないけれど」
女子生徒の一人が、紙袋から教科書くらいのサイズの鏡を取り出した。
「じゃあ、それを持って、椅子の後ろに立ってくれ。それと……誰かカーテンを締めて暗くして」
俺は、このクラスのリーダーを自認している。クラスメイトもそれを認めてくれていると思っている。
これから行うのは、六年生で流行っている「背後霊をみる方法」だ。他のクラスでは、すでに実施したところがあるそうだ。
「二組でやったときには、何か写ったって……」
直人は、やはり乗り気ではないようだが、俺はその発言を無視した。
他のクラスがやったのに、うちのクラスがまだなんて、性格的に許せない。
負けた気がする。
何かが写るかどうかは重要じゃない。やることに意義があるのだ。
「じゃあ、誰が座る?」
俺は、三十名のクラスメイトの顔を順に見渡した。皆、顔を伏せ気味だ。誰もが、聴衆となるのはいいが、被験者にはなりたくないのだ。
仕方ないので俺が……と思ったとき、理沙が「はいはーい。私がやりまーす!!」と飛び跳ながら手を挙げた。
さすがというか、軽いというか。おかげで場が和む。
「じゃあ、座ってくれ。スマホは俺のを使うから」
理沙が髪を揺らして勢いよく椅子に座った。彼女を中心にクラスメイトが円状に取り囲み、俺は理沙の前、2メートルほどの位置に立った。
降霊術というものは、おそらく簡単にできるものではない。
映画で見たときには、特別に訓練した人や、霊媒師など能力を持つ人が行っていた儀式だ。
タロットカードやら、何かの石やら、特殊なお香みたいのものの力を使って霊をあの世から降ろすのだ。
小学生が、気軽にやっていいわけがない。
それでいい、やることに意味があるのだ。
噂で流れているやり方はこうだ。
場所は学校の教室。学校には色々な思いがこもっているので、霊を見るには適してるのだとか。
被験者は椅子に座り、目を閉じて背後に集中する。瞑想状態がベストらしい。しかし、それがどんな状態か、俺には分からない。
部屋はできるだけ暗くする。本当は夜がいい。
だけど、さすがに夜の学校に忍び込むと叱られるので、始業前にカーテンを閉めてできるだけ暗くすることを選んだ。
「理沙、目を閉じて、心を静めて。そして、背後に意識を集中する……」
噂で聞いた通りの指示を出した。理沙は大きく息を吐いてから目を閉じた。
教室は静まり返り、異様な緊張感が場を満たした。
被験者は背後に何か気配を感じることがある。そうしたら、ゆっくりと手を挙げる。
気配は、霊がいる証拠だといわれている。
その瞬間を写真に納めると、鏡に背後霊が写るらしい。
1分……2分と、無言の時間が流れた。クラスメイトの吐息と、服が擦れる音しか聞こえない。
「どうだ……理沙?」
彼女が全く動かないので、しびれを切らして声掛けをした。
「全然。何も感じない。もう少し頑張る」
黒板の上に掲げられた時計に視線をやる。
始業の15分前。あと、5分が限界か。教室の配置を元通りにするのに5分はかかる。
先生はいつも、始業前ギリギリにしか来ない。とはいえ、5分は余裕を残しておくべきだろう。
「んん……」
理沙は小さく喉を鳴らした。足を小刻みに震わせている。
予兆がないのだろう。皆に見守られている中、変化がないことに苛立ちを覚えているように見えた。
「あっ!」
吐息のように理沙が声を漏らした。
「何か、感じた!?」
俺は、スマホを理沙の方へ向けた。
鏡に視線を送るが肉眼で確認できるのは、理沙の背中が写っているだけ。
その時だった。ガタガタと教室が揺れる音が響いた。
俺はビクッと体を震わせた。何名かの女子は「ひっ」と低い悲鳴をあげた。
「やばい、先生が来たぞ!!」
直人が、スライド式のドアの方を指さして叫んだ。
誰も入ってこられないように、ドアは掃除用のほうきでつっかえ棒をしてあった。
「みんな、直ぐに机を戻せ!!」
俺の声に弾かれて、全員が一斉に動き出した。
被験者の理沙は座っていた椅子を持って移動し、鏡を持っていた女子は慌てて紙袋に隠した。
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