3人が本棚に入れています
本棚に追加
4 執着の正体は
製菓コーナーで会った以上嘘をつくのも馬鹿馬鹿しいので、(那須の気持ちは隠して)チョコを作るために買い物に来たと白状した。しかしこれがマズかった。
高梨は目をキラッとさせると、
「翔ちゃん達二人で作るの? 私も混ぜてよ!」
と、言った。
「喜んで! ぜひ一緒に作ろうよ」
止める間も無く那須がオッケイする。(チョコをあげる相手と一緒に作ったらサプライズにならないじゃんか……)と那須を睨んだがもう遅い。俺たちは高梨の家でチョコを作ることになった。
「お邪魔します」
高梨を先頭にゾロゾロ台所に入ると、高梨のお母さんがいた。
「ただいま。お母さん、三人でチョコ作ることになったから手伝ってよ」
「はいはい、わかったわよ」
高梨は、はじめからチョコ作りの手伝いを頼んでいたようだった。高梨の母さんが俺たちに、
「翔ちゃんいらっしゃい。お友達も」
と言うと、那須が羨ましがった。
「いいなぁ、高梨さんと家族ぐるみの付き合いなの?」
気のせいか那須の視線がちくちくと痛い。
高梨とお母さんがテキパキとチョコ作りを始める。結局俺たちがしたのは、買ってきた五百円玉大のアルミカップに溶かしたチョコを流し込んだだけだった。
ラッピングまで頭が回らなかったので、高梨が用意していた残りを使わせてもらう。
ツヤツヤの包装紙とリボンで飾り付けされてそれっぽくなったけど、(これでよかったのかな?)と疑問を感じる。高梨、この包みのうち一つは、生まれ育った川に戻る鮭のように、お前の元に帰ってくるんだぞ……と心の中でつぶやいていると、
「それにしても男の子がバレンタインのチョコを作ろうなんてえらいわねぇ」
と、高梨母が笑って言った。
「そんなんじゃないですよ」
と、答えてから俺はたまらず、「うっぷ」と口と鼻を両手で覆った。
「大丈夫? 佐藤」
那須が心配そうに俺の顔を覗き込む。高梨が苦笑いして、「ちょっと寒くなるけどごめんね」と那須に断る。高梨母が部屋の窓を開けて換気してくれた。
「俺、チョコレートの甘い匂いが苦手で」
と、言い訳しながら(おかしいな)と首を傾げる。
――バレンタインのチョコレートが欲しいなら、チョコの匂いはむしろ好ましいいはずなのに。俺はチョコレートが欲しいんじゃないのか。
そのとき、那須が「あれっ?」と声を上げ、俺の右手首、拳を握ると筋が浮き出る少し横のあたりを指差した。
「絆創膏が剥がれてるよ」
と言われてみれば、確かに手首から這っていた絆創膏の三分の二くらい垂れ下がり肌が見えている。
「やだ可愛い。何、その模様」
と、高梨が笑う。俺は慌ててそこを反対の手で覆った。
「なんでもない」
「なんでもなくないよ。ハート型ってことは、もしかして恋のおまじないなのかなー?」
と、高梨が揶揄ってくる。俺は無性に腹が立って、高梨母と那須の前だというのに、
「うるさいな!」
と怒鳴り那須を残して、俺は一人でさっさと自分の家へ帰った。
最初のコメントを投稿しよう!