6人が本棚に入れています
本棚に追加
/2ページ
一年後
<友人たちの会話>
A「あれ、暁さんじゃない?」
B「え、どこ?」
A「あの、ビニール袋を持っている人」
B「本当だ。暁さん!お久しぶりです」
暁「久しぶり。元気だった?」
A「みんな元気ですよ。暁さん、この辺りに引っ越したんですか?前は体育館の近くのアパートでしたよね」
暁「ああ、少し前に引っ越したんだ」
B「今度のクリスマスかお正月に飲み会やろうと思っているんです。暁さんも久しぶりに来てくださいよ」
B「ユキがいると気まずいですか?でもあいつもほとんど来ないから」
暁「ああ、そっか」
A「暁さん、失礼かもしれないですけど、どうしてユキと別れちゃったんですか?やっぱりユキが東京に行ったからですかね」
B「余計なこというなよ」
暁「うーん、なんとも言えないな」
A「そうですよね。すいません」
暁「そろそろ帰らなきゃ。飲み会は行けそうなら顔を出すよ」
B「はい。じゃあ」
暁「ばいばい。気をつけて」
A「暁さん、新しい彼女が出来たのかな?」
B「え、なんで?」
A「知らない間に引っ越ししてたし。ビニール袋に入ってたカレー見た?」
B「見てない」
A「2人分あったよ」
B「そうかあ」
A「やっぱりあの2人、別れちゃったんだな」
「ただいま」
青いカバーをかけたベッドの上でゴロゴロしていると同居人が帰ってきた。
「見てないなら、テレビは消しな」
「まだ見てるんです」
「血税で払ってる電気代だぞ。節電を心がけろ」
「すいません」
「カレー買ってきたよ」
「ありがとうございます」
「そういや、さっき久しぶりに飲み会メンバーの2人に会ったよ」
「本当に?」
「俺が引っ越したこと、知らなかったから驚いてた」
「だろうね」
「『なんで別れたんですか?』って聞かれた」
「俺も久しぶりに会ったら、いつも聞かれる。なんて答えたの?」
「黙ってた」
「そうだよね、俺も答えられないんだよね」
だって俺たちは別れてないのだ。
むっくと起き上がると暁はコートを脱いで、ハンガーに掛けていた。
「今日のカレーはカツトッピングだぞ」
「お礼の言葉もございません」
あれ以来、俺はすっかり暁に頭が上がらなくなってしまった。
一年前、居酒屋でみんなと別れたあと俺は走って暁の部屋に行き、謝りまくってなんとか怒りを収めてもらったのだ。
「それでも学校は行くんだろう?じゃあ遠距離だぞ、絶対長続きしない」
「通うよ」
「2時間もかけて?」
「2時間は流石にキツイから、暁ももう少し東京寄りの駅へ引っ越してくれないかな?」
「は?なんでだよ?俺の職場からは遠くなるじゃん」
「でも一緒にいられるじゃん。ついでに・・・一緒に住もうよ」
「ついでに?じゃあ俺はお前のために、職場から遠いアパートに引っ越してなんならお前のためにちょっと多めに光熱費とか出さなきゃいけないのかよ?」
「通学時間が長いとバイトに当てる時間が短くなるから・・・そうなるかも」
「俺が承諾すると思うのかよ?」
「してください。お願いします」
俺が拝み倒すと、暁は絶望したように掌で顔を覆った。
確かにすぐに決断出来る話ではない。「少し考えてみて」と言おうとしたのに、暁はすぐに答えを出した。
「これからお前は一生、俺に敬語だからな」
「一生?」
「そう一生。出来るか?それなら承諾してやるよ」
「出来る。いや、出来ます。やらせてください」
「理解が早いね」
別れるどころか、成り行きで一生一緒にいることになってしまった。
「あのあとすぐにみんなに話せばよかったんじゃない?」
「なんか恥ずかしかったんだよな」
「暁にもそんな感情があるんだな」
暁がこちらを睨みつけてきた。
「暁さんは大変繊細な感性の持ち主なんですね」
「まあね。それにあの後すぐ別れるかもしれなかったし」
「なんだよ『一生』とか言っといてひどいな」
また睨まれたので黙る。
「クリスマスかお正月に飲み会しようって誘われた。2人で行って、そこでみんなに話そうか?」
「そうしようか。クリスマスとお正月どっちがいいかな?」
「お正月」
「なんで?」
「クリスマスはお前と二人で過ごす。文句あるか?」
「ございません」
「よろしい。じゃあ血税で買ったカレーを食べなさい」
「ありがたく頂戴いたします」
カツトッピングのカレーを食べながら、みんなになんて言おうか考えた。
久しぶりに2人でみんなと会うのは、相当恥ずかしいな。
みんな驚くだろうけど、喜んでくれるかもしれない。
最初のコメントを投稿しよう!