宙を見上げて

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「今回のシステムのコンセプトは、ユーザビリティの最大化です。最も重要な点は、意識することなく、最小限の操作で目的の機能にたどり着けることです」  新機軸のシステムのプレゼンのため、わたしは部下を引き連れて取引先を訪れていた。 「なるほど。ユーザーに意識させない配慮はとてもいいですね」  にこやかな顔で頷いているのは、取引先の責任者の馬渕さん。その声が、暗闇の中で聞いた()の声と重なる。彼こそ、〝ヒロくん〟に間違いなかった。  これまで、彼とはメールでしかやり取りをしていなかったので、名前を見ても気づかなかった。改めてその顔を見ると、かつての面影と共に思い出が蘇ってくる。 「ありがとうございます」  わたしは頭を下げると、もう一度仕事モードに意識を切り替えた。今はまだ、仕事を全うするべき時間だ。  今日は、わたしを天文の世界にいざなったペルセウス座流星群が極大となる。今夜は新月でもあり、好条件で流星群を観測出来るはずだ。  彼とは夜にまた会うことになるだろう。そのときは、久しぶりに子供の頃に返って大好きな星の話をしようと思う。
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