宙を見上げて

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「今はどんな仕事をされているんですか」 「星とは全然関係なくて、IT関連の会社で部下の管理ばかりしてるんです」 「その年齢で管理職なら、エリートコースでしょ」 「そうなんですけどね。いつもは仕事の虫みたいに思われてますから、わたしにこういう趣味があるなんて知ったら、みんな驚くでしょうね」 「誰だって色々な顔を持っているものですよ。別に無理してさらけ出す必要も無いですし」  彼の言葉に、わたしははっとした。彼はとっくにわたしに気づいていたと言っていた。わたしに配慮して、観測に集中出来るようにしてくれていたのだ。 「天文から得た感動は、ミナちゃんの人格のベースになっていますよね。だから、関わる人たちも間接的に天文の影響を受けていることになります。それで十分でしょう」  小学生のころから二十年間、ずっと星を見続けてきた。彼の言う通り、わたしを構成する要素の大部分は、空から得られたものだと言ってもいい。 「それに、あれを見た感動を言葉に表すなんて無理ですし、なんとなく、秘密にしたくなりますもんね」  彼がそう言って、空を見上げた。つられて視線を上げると、雲のように連なる星々の川が、斜めに横たわっていた。
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