宙を見上げて

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 今日のわたしはすっぴんも同然だった。常に完璧なメイクで武装しているわたしからすれば、別人に見えるだろう。いくら美人で通っていたって、見せたくないシミだってあるし、できものだってできる。それらを隠さずに人前に出るのは、勇気がいる。  周りからは、常に完璧に美しく仕事をこなすスーパーウーマンのような役割を与えられている。わたしはそんな期待になんとかここまで応えてきたつもりだ。  だが今日は、そんな俗世から離れた世界にいる。宇宙全体からすれば、わたしの鼻横のできものなんて、観測対象にすらならないのだ。  今日ここにいるわたしは何者でもない。ただの通りすがりの観測者だ。時々宇宙を感じて、心を休める時間がなければとても仕事なんて続けられない。  観測は駐車場からでも出来るが、やはり明かりが邪魔になる。この高台には、登山口から登って森に入った先に、展望台が設けてある。この時期になると、登山道にイノシシや、場合によってはクマが現れることがある。普通の人が聞けばそんなところにわざわざ近づくなんて危険だと言うだろう。でも、そんなことは問題ではない。より星に近づける場所があるとわかっているのに、動かないなんてことはあり得ないのだ。  観測する予定時刻は午後十時。かなり時間があるので、わたしは下見に向かうために車を出た。すると、隣の車から例のニット帽の男も出てきて、大きなケースを下ろし始めた。おそらく観測用の機材一式が入っていると思われる。まだ日も高く、準備するには早すぎるが。わたしは彼を横目に森に入った。
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