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時刻が午後九時半を指したのを確認し、わたしはヘッドライトを装着した。望遠鏡の入ったケースを担いで車を出る。これから真っ暗な山道を登っていかなくてはならない。多少の危険が伴うが、それだけの価値はある。
幸い、同じように展望台を目指す人たちがいたので、わたしは彼らの少し後ろをついて行くことにした。
展望台には周囲に人工的な明かりがほぼ無いため、暗闇になる。その分、夜空に散りばめられた星が肉眼でもはっきりと見える。わたしはこの景色を見るたびに、心を洗われるような気がするのだ。
「こんばんは」
「どうも」
恐らく昼からずっとここにいると思われる例の彼に挨拶をして、わたしはケースを下ろした。
ファインダーを覗き込んで、遠くに見える枯れ木を基準に調整を始める。続いて接眼レンズを覗いたところで、わたしは血の気が引いた。像が曇って見えるのだ。これは内部のレンズに異常がある可能性が高い。よりによってこのタイミングで。
「嘘でしょ」
つい、声に出してしまった。わたしの望遠鏡だって、三十万円はするそれなりの代物だ。ここに登ってくる間に何かぶつけたりしただろうか。
「故障ですか」
途方に暮れていると、隣の彼が声をかけてきた。
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