6 エピローグ

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6 エピローグ

 仁和が入院している病院を訪れたのは、それから三ヶ月が経った日の夕方だった。  病室の扉を開けると、ギプスの巻かれた足を鉄製の器具で固定された仁和がベッドで横になっていた。 「そろそろ来る頃だと思ってたよ」  私に気付いてベッドから体を起こそうとする仁和に、私は言う。 「無理しないで下さい。まだ手術が終わったばかりだって聞きましたから」 「まあ、しばらくは安静にしておけって医者からも言われたよ。タバコも取り上げられちまったしな」  照れくさそうにぼさついた髪を掻く仁和に、私は訊ねる。 「足の具合はどうですか?」 「とりあえず歩けるようにはなるらしい。多少後遺症は残るかもしれないが」 「良かったです。あれだけひどい怪我だったから」  お見舞いに持ってきたガーベラの花束を花瓶に飾る私に、仁和は小さく溜め息をついて返す。 「まあ、結果的には命が助かっただけでも御の字ってことか。俺も君も」 「……そうかも、しれませんね」  私はそう言って、病室に備え付けの洗面所で花瓶に水を入れる。  あの大学の研究室で、繭に包まれた私は発見された。  助け出された私に外傷はなかったが、一緒に繭の中に入ったはずの橘千霧は、体の輪郭が判別できないほどに溶解した状態だったという。 「……」  花瓶から溢れ出した水を、黙って見つめる。  どうして私が再び生き残ったのか、その理由は分からない。繭憑がなぜ私の体だけを再構成させたのかも。  あの赤い水の中で最後に聞いた叫び声は、橘千霧のものだったのだろうか? 「大丈夫かい?」  ベッドの上から声を掛けてくる仁和に、私は小さく頷く。 「ええ。ちょっとあの時のことを思い返していて」 「悪かったね、嫌なことを思い出させてしまって」 「いえ……」  形を整えたガーベラの花瓶を窓際に飾る制服姿の私に、仁和が訊ねてくる。 「今日は、学校から直接?」 「ええ、放課後にそのまま病院に立ち寄ったんで」 「そう……か」  来客用の椅子に置いていた私のバッグに目を移そうとする仁和に、私は告げる。 「それで仁和さん……今日はお伝えしたいことがあって」
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