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重苦しい夢から意識を目覚めさせたのは、スマホの着信音だった。
枕元に置いたスマホを手に取る。ディスプレイに表示されていたのは、仁和亮司からのメールの通知だった。
メールを開くと、今日待ち合わせした大学病院の場所と時間が示されていた。
「……」
力なくスマホをベッドの上に投げ出して部屋の中を見渡す。カーテンの隙間から射し込む陽射しに、部屋の中がうっすらと明るくなっていく。
どうしてあの男に連絡を取ってしまったのか、理由は自分でも分からなかった。
ただ、奏を失ってから心の奥底でずっと淀み続けている沈鬱な気持ちを、少しでも晴らしたかった。奏の居なくなった喪失感とともに、何かとても大切なものを失ってしまった気がした。
(でも……)
陽射しが反射して白み始めた天井を見上げる。
あの男と会ったからといって、私にいったい何ができるというのだろう。奏が死んだ理由など、私に分かるはずもないのに。
そもそも、何故あの男は私に声を掛けてきたのだろう。奏の死の真相を探っていると言っていたが、本当にそれだけが目的なのだろうか。
それにこの前、転校生の橘千霧が犠牲者は増え続けると告げた言葉も気になった。
「……ふう」
ひとつ溜め息をついてから、気怠い体をベッドから起こす。
疑心暗鬼だろうか。あまりにも色々なことが起こりすぎて、最近神経質になり過ぎている気がする。
部屋を出て階段を降りていくと、台所で母親が朝食の準備をしていた。
私に気付いた母が、いつものように穏やかな口調で話しかけてくる。
「結衣、朝ごはんは?」
「……ごめん、食欲がなくて」
「少しは食べないと体に悪いわ。牛乳、温めるから」
「お父さんは?」
「急に仕事が入って、朝早く出かけたわ。開発してる医薬品のデータがどうとか言ってたから、忙しいみたい」
マグコップに注いだ牛乳を電子レンジに入れる母に、私はダイニングテーブルの椅子に座りながら言う。
「今日、ちょっと出かけてくるから」
「大丈夫?」
「……うん」
何が大丈夫なのだろう。友人を失った私を気遣っているだけなのに、どこかその言葉すら空々しく感じてしまう。
「色々と大変だろうけど、あまり無理しないようにね」
温かい牛乳の入ったコップを私に差し出しながら、母が微笑んでくる。いつもと同じはずなのに、最近どこか私に対する態度がよそよそしい気がした。
「……うん」
ひと口だけコップに口を付けてから、私は立ち上がる。
なぜだろう。
最近、言いようのない居心地の悪さを感じることが多くなっていた。学校でも、この家でも。
事件が起きてから、何か全てが変わってしまったような、そんな気がした。
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