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奏の葬儀を終えた後、私は一人で近くの公園へと向かった。
いまにも雨が降り出しそうな空模様のせいか、公園に他に人影はなかった。
「……」
小さく溜め息をついて、風に揺れるブランコに力なく腰を下ろす。
奏の亡骸と顔を合わせることはできなかった。
棺桶は用意されていたが、そこには何も入っておらず、ただ奏の顔写真と花が飾ってあるだけだった。
親類の人だろうか、誰かが廊下の奥で声を潜めて話をしていた内容によると、どうやら遺体の損傷がひどすぎて、棺桶に入れられるような状況ではなかったということだった。
錆びたブランコの鎖がキイキイと嫌な音を立てて軋む。
頬を擦る冷たい風に顔を上げると、公園の隅にたくさんの花やジュースが供えられているのが目に入る。
この公園は、奏の死体が発見された場所だ。
事件が起きてすぐは警察の規制線が張られていたが、今はもう立入禁止も解除されていた。だが凄惨な事件が起きた現場ということもあって、噂によると近いうちにこの公園も閉鎖されるという。
「奏……」
置かれた花束を見つめたまま、ぽつりと呟く。
この公園にも学校帰りによく奏と一緒に来て、他愛のない話をして一緒に過ごしていた。
嬉しそうに目を細めて笑う奏の顔が、今も目に浮かんでくる。
つい数日前まですぐ傍に居たはずの奏の存在がもうこの世界から消えてしまったという事実が、今でも信じられなかった。
「どうして……こんな」
うつむいた瞳に涙が潤んで、次第に視界がぼやけてくる。
涙を拭おうとハンカチを鞄から取り出そうとした時、ブランコの前に立つ何者かの影が目に入る。
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