47人が本棚に入れています
本棚に追加
「しんみりしてるところ、悪いね」
顔を上げると、そこには野暮ったいコートを着た一人の男が立っていた。
「……」
ブランコに座ったまま黙って見つめる私に、男はぼさついた髪の毛を掻きながら言う。
「いや、別に怪しい者じゃないよ。秋津奏さんの関係者とでも言えば良いかな」
「……奏の?」
「ああ、さっきの葬式の時にも居たんだけど、気付かなかったかな」
「いえ……」
「どうにもこういう感傷的なのは性に合わなくてね。隣、いいかな?」
私が返事をする前に、男は隣のブランコに腰を下ろす。三十代半ばだろうか、喪服ではなかったが黒いネクタイをしている所から見ても、男が奏の葬儀に参列していたのは確からしかった。
無精髭を生やした男を訝しげに見つめる私の視線に気付いたのか、男は苦笑いしながら黒いネクタイを緩める。
「さっき慌ててコンビニで買ったんだ、黒いネクタイなんて持ってなくてね」
「……」
「参ったな、そんな目で見ないでくれよ。さっきも言ったろ、怪しい者じゃないって。俺は仁和亮司って者だ」
男はコートの内ポケットから取り出した一枚の名刺を無造作に差し出してくる。そこには、経営コンサルタント会社代表取締役と印刷されていた。
「経営……コンサルタント?」
「ああ、何か肩書きがないと職業柄なかなか信用してもらえないもんでね。それはあくまでも表向きってことで」
肩をすくめる男に、私は訊ねる。
「それで……私に何か用でしょうか?」
「ああ、少しだけ話を聞かせてもらえればと思ってね、羽吹結衣さん」
「どうして私の名前を?」
「奏さんの高校の親友くらいは調べてるよ。それが俺の仕事なもんでね」
「仕事……マスコミや探偵の人ですか?」
硬い表情の私を見て、仁和と名乗る男は小さく首を横に振る。
「いや、もうちょっと権威のある組織だよ。あんまり大っぴらには言えないけれどね」
「権威?」
「そう。ま、はっきり言うと警察関係。公安って聞いたことあるかな? 警察の特定機密部門。といっても、俺はそこに所属してる訳じゃないけどね。俺はあくまでも報酬を貰ってこういうキナ臭い事件の調査を依頼されてる、フリーランスの人間」
「……」
「ま、いきなりこんな話して信じろってのも無理な話だろうけどさ。でもね、こういう厄介な事件の調査を請け負うような人間も必要なんだよね、実際」
自虐的に乾いた笑みをもらすと、男はブランコの鎖にもたれかかる。
最初のコメントを投稿しよう!