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居心地の悪さを感じながら辺りを見渡すと、隣の列の生徒たちのバッグに、何か見慣れない紙人形がくくり付けられているのに気付く。
(……人形?)
それは確か『やっこさん』と言ったか、人型を形作った小さな折り紙だった。
よく見ると、机に掛けられたどの生徒のバッグにも、その色とりどりの折り紙が撚り糸で結び付けられていた。
願掛けやお守りの類だろうか。これまで全く気にしていなかったが、いつの間にこんな人形が学校で流行りだしたのだろうか。
その時、ふと、どこからか視線を感じる。
バッグの中の荷物を探すフリをしてそれとなくうかがってみると、廊下側の席に座る一人の女子生徒が、小さく頬杖をついてこちらを見ていた。
長い黒髪をしたその生徒は、二学期になって転校してきたばかりだった。
(橘……千霧)
彼女とはこれまで話をしたことはなかった。どこか人を寄せ付けない雰囲気で、休み時間も一人で居ることが多かった。噂によるとすぐ隣の市の高校から転校してきたらしかったが、その理由は分からなかった。
一瞬窓の外を見ているのかとも思ったが、やはり彼女の視線の先にあるのは間違いなく私だった。
彼女はどこか冷ややかな視線をこちらに向けたまま、ずっと私のことを見続けていた。
(どうして……)
一瞬だけ合った視線を、私は慌てて逸らす。その眼差しの奥に、何か薄気味悪いものを感じた。
うつむく私を見て、隣の席の夏帆が小声で話しかけてくる。
「結衣、ちょっと大丈夫? 顔が真っ青だけど」
「あ……うん。平気」
顔を上げてうかがうと、橘千霧は何ごとも無かったかのように手にした本を広げて読んでいた。
気のせいだったのだろうか。
だがまるで全てを見透かしたような彼女の光のない無機質な瞳が、今も瞼の裏に焼き付いて離れなかった。
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