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その日の放課後、私は夏帆と一緒に事件現場の公園へと向かった。
夏帆と話し合って、学校が終わった後は毎日この公園に立ち寄ろうと決めていた。
「奏って結構寂しがり屋だったからね。私たちだけでも、こうしてできるだけ一緒に居てあげないとね」
吊り気味の目を細めて言う夏帆に、白いユリの花束を抱えた私はうなずく。
奏が行方不明になる前の日も、私たちいつものように公園の入口で別れた。この公園を通り抜けるのが、奏の家までの近道だった。
「じゃあね、また明日」「うん、帰ったらラインするから」
それが奏と交わした最後の言葉だった。
いつものように笑顔を浮かべて、奏はここで私に手を振っていた。
さらさらのショートボブの髪型が似合っていて、同級生なのに妹のように小柄で可愛らしい子だった。
「……」
公園が近付くにつれ、花束を持つ手に力が入る。
手を振る奏が、今も公園の入口に立って私を見ている気がした。
「あの時、私がもう少しでも奏と一緒に居てあげられていたら……」
唇を噛んでうつむく私の肩に、夏帆がそっと手を置く。
「仕方ないよ。あんなことになるなんて、あの時は誰にも分からなかったんだから」
「でも……」
「ほら、そんな顔しないの。結衣がそんなに落ち込んでたら、奏だって悲しむよ」
「うん……」
夏帆に肩を抱かれるように、公園の中へと入る。
「やっぱりあんな事件があった後だから、あんまり誰もここには近付こうとしないみたいね」
ひっそりと静まり返った公園を見渡して、夏帆が溜め息をつく。傾きかけた夕陽が、ひと気のない公園をオレンジ色に染めていた。
今でも私の中には疑問が残り続けていた。
あの仁和亮司という男が言ったように奏が白い繭の中で発見されたのなら、いったい誰が何の目的でそんなことをやったというのだろうか。奏の死因だって今も分かっていないというのに。
繭が発見されたという公園の奥へと近付いていくと、同じ高校の制服を着た人影が見えた。
「あれ……は」
足を止める私たちに気付いたのか、その人影が振り返る。
長い髪を耳に掛けて無機質な視線をこちらを向けたのは……橘千霧だった。
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