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2021年、健一は頭を抱えていた。2020年の3月に大学を卒業し、翌月から新社会人になる予定だった。だが、前年の暮れに中国で起こった新型コロナウィルスが日本でも流行し、世界中で流行すると、幸せが何もかも失われた。卒業式も入社式もなく、寂しい日々になった。職場はリモートワーク、テレワークが多くなり、オフィスは寂しくなった。
「どうしてこんな事になったんだよ・・・」
健一は泣きそうになった。何もかも楽しみが奪われていく。どうしてこんな世界になったんだろう。自分にもわからない。全ては天が与えた試練のようだ。だが、受け入れなければならない。だけど、それによって、人間は滅んでしまうんじゃないかと思ってしまう。病院は一生懸命やっているが、なかなか解決策は見つからない。新型コロナウィルスによって亡くなる有名人も多少いて、その恐ろしさを感じる。ここになって、ようやく新型コロナウィルスのワクチンが日本でも承認され、接種が始まっているが、自分にはまだその番が回ってこない。それまではウィルスにおびえながらの日々になるだろう。
「新型コロナウィルスさえなければよかったのに」
健一は思い出した。東京五輪の事だ。実際なら、2020年に開催される予定だった。2013年に2020年に東京で開催されることが決まった時は、とても喜んだ。というよりか、みんな喜んだんじゃないかな? だけど、開催される年になって新型コロナウィルスによって開催が延期になり、今年の夏に開催される事になった。
「なければ、東京五輪が予定通りやっていたのに」
できれば、東京五輪を2020年に見たかったな。楽しみにしていた人、どれだけいたんだろう。そして、去年と変わらない状況の中で、本当にできるのかと疑問に思ってしまう。だけど今は、東京五輪ができ、そしてその中継が見れるのを素直に喜ばないと。日本で行われる五輪なんて、あまりない。ひょっとしたら、一生ものかもしれない。素直に受け入れよう。
「東京五輪、見たかったよ・・・。あんなに楽しみにしていたのに・・・」
と、健一は受話器を取り、恋人、真利亜(まりあ)に電話をかけた。大学時代に知り合ったガールフレンドで、将来結婚しようと考えていた。だが、ちょうどその時に新型コロナウィルスが流行したせいで、全く会えなくなってしまった。今は離れ離れだけど、コロナ禍が収束したら、再び会いたいな。そして、結婚したいな。
「もしもし、東京五輪、見たかったね」
「わかるわかる。その気持ち、わかるよ」
真利亜も健一の考えに同感だ。自分も見たかった。2013年に決まった時は本当に嬉しかった。2020年の開催が来年になった時は、泣けてきた。
「ありがとう・・・」
「会えない日々が続くけど、いつかは会える日が来るから」
健一は思っていた。いつになったらコロナ禍は収まるのか。収まっても、元の生活はもう戻ってこないんじゃないか? また会える日は来るんだろうか? 結ばれる日は来るんだろうか? ただ、真利亜が好きなだけで知り合っていた。
「本当かな?」
「うん。世界の人々が頑張ってるから、信じようよ!」
だが、健一は不安になる事がある。ワクチンが開発されても、また変異株が出て、また新しいワクチンができる。まるでいたちごっこのようで、終わりのない未来のように見える。そう感じると、もう元の生活は戻ってこないんじゃないかと思ってしまう。
「でも、また変異株が出るよ」
「出てもまた新しいワクチンを作れば」
真利亜は希望を捨てていなかった。きっと新しいワクチンができて、必ず世界は救われるさ。
「何度そんなの繰り返したらすむのよ! 早く元の生活に戻らないか不安だ!」
「そう言われたらそうだけど、みんなを信じよう!」
真利亜も焦っていた。何度も変異株が現れるの繰り返しだ。だけど、それにも終わりが来る。そして人間が勝つ日が来る。その日を待つしかないだろう。
「会えないの、つらい?」
「うん」
真利亜の想いに、健一も同感だ。大学で出会って、これから素晴らしい日々を送ろうと思っていた矢先の出来事だ。あまりにも悲しすぎる。だけど、みんなそれで苦しんでいる。自分の苦しみは、他人の苦しみなのかもしれない。
「会いたいと思ってる?」
「もちろんだよ」
健一は思い浮かべた。卒業式で会ったのが最後だ。いつになったら再び会えるんだろう。会って、これまでの事を語り合いたいな。
「いつになったら会えるんだろう」
「わからないけど、必ず来るって信じよう!」
だが、健一は下を向いてしまった。いくら励ましても、全く効果がない。先の見えない未来しかない。
「だけど・・・」
「頑張ろうよ!」
真利亜は励ましている。だが、健一には全く通用しないようだ。下を向いている。
「・・・、わかったよ・・・。結局、来年になったのか。どうして・・・。どうして、人間はこんな試練を与えられるんだろう。試練とはいえ、会えないのはつらいよ」
健一には、選手たちの気持ちがわかった。1年先になり、あれだけの準備が水の泡になってしまった。これからどうしようと思っている人も多いだろう。
「選手たちって、延期になったのを知って、どんな気持ちなんだろうね」
「つらいだろうな。それはみんな一緒だから」
健一は思っている。今年開催されるとはいっても、本当に開催されるかどうか不安だ。中には反対する人もいる。あれだけ楽しみにしていたのに、コロナ禍のせいでこの有様だ。本当に東京五輪はこの時期に行ってよかったんだろうか?
「そうかな?」
「きっとそうだよ。でも、明るい未来はきっと来るからね」
「来たらいいけど・・・」
結局、答えが見つからない。だけど、前に進まなきゃ。そして、その先に明るい未来が信じて生きていかないと。
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