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プロローグ2
「君、ディベートに興味はないかね?」
「お断りします。」
その誘いを、にべもなく断った良魅。
ーーディベートは、嫌いなので。と。
「ふうむ?」
しかしその大男ーーはかりさんはまだ引きさがらず続けた。
もしかして女子高校生がタイプのサディストなのだろうか。
「しかし君ーー小学生の頃は、コンテストにも参加していたそうじゃあないか。その時の映像を見させてもらって、光るものを感じてね。しかし、中学生ではーー」
「…中学生?」
その時。
その場の空気が燃え盛るように渦を巻いた気がした。
凍りつくという表現はこの場合適切ではないと思う。腹の底からとぐろを巻いて湧き上がるどす黒い…怒り、憤怒、悲しみ、絶望ーーどの言葉でも表しきれない黒い感情が、顕現したのを感じた。
その感情の主は、もちろん僕でも、はかりさんでもなく、
良魅だ。
「…中学生の時のこと、何か知ってるの?」
「え?あ、いや…知らないから、どうしていたのか聞こうと…」
「絶対に教えない」
「え…………」
「中学生の頃…中学生の時は……それは………」
「良魅!」
僕は思わず、良魅の肩を叩いた。
眼はどこか虚で、明らかに狼狽しているのがわかる。呼吸も速い。
「落ち着け!落ち着くんだ!」
「ぁあ…あ………」
「深呼吸!吸って…吐いて…」
背中をさすって、落ち着いて呼吸するよう促す。浅かった呼吸が少しずつ、少しずつ治り、やがて床にくずおれた。
僕はほっとする。
ーーが、しかし。
「ふふ…そうか……」
目の前で子供が床に膝をついているというのに、大男ーーはかりさんは、あごに手を当てながら笑っている。
「おまっ…は、はかりーーさん。手伝ってください。保健室にーー」
「病饠屋君ーー私に過去のことを知られたくないかね?」
「ーーーーーーーーーーーーーーっ!」
「実を言うと、私はなかなかの権力者でね…君の過去を知ろうと思えば、どうとでもなるんだよ。君がそこまで狼狽える秘密…知ったら使えるかな?」
「ーーーーーー!」
こいつ……!
心配するどころか、良魅の弱みを握って、利用しようとするなんてーー鬼畜である。
いや。
ここは人間らしいというべきなのか。
現実的にーー社会的にーー人間らしい。
いやというほど。
「病饠屋君、私と取引をしようじゃあないか」
「ーーーーーーーーーーーな、なん、ですかーー」
「なあに、簡単なことさ。私の主催するディベートに参加して貰えばいいんだ。」
「……」
「あぁでも、本気を出さないでもらっては困るな…ではこうしよう、ディベートのどちら側についてもいい、ただし負ければ、」
君の秘密を暴き、晒してあげよう。
「………………………………わかった」
「…え?」
良魅は息も絶え絶えに、そう返事した。
「ちょ、ちょっと待てよ、良魅、こいつのいうことなんて、真に受けなくていい。」
「いいの。……」
「決まりだな」
はかりは、満足そうに頷くと、その場を立ち去っていった。
そしてこの日から、良魅の戦いが始まった。
それはあの大男との戦いか、自分との戦いか、それともーー
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