僕の家庭教師

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 新年最初の朝を迎えた。いよいよ入試の年が幕を開けた。今年が勝負の年になるだろう。この先、入試のある年はそうなってくるだろうけど。  知也はいつもの時間に起きた。だが、いつもとは違う目覚めだ。そこに奈美恵がいるからだ。 「いよいよ新年だね」  知也は振り向いた。そこには奈美恵がいる。真冬なのに、ノースリーブだ。幽霊は寒さなんて気にしていないようだ。 「明けましておめでとうございます!」 「今年もよろしくね! そして、今年は頑張ろうね!」  知也はお辞儀をすると、奈美恵もお辞儀をした。いよいよ今年だ。より一層頑張って勉強しないと。 「うん! 理想の高校に行けるように頑張らないと」 「ああ。奈美恵先生やお父さん、お母さんの期待に応えないとね」  知也は1階に向かった。両親にも新年のあいさつをして、おせちを食べないと。  ダイニングにやってくると、そこには両親がいる。麻里子は椅子に座っている。すでにおせちはできていて、重箱に入っている。 「おはよー」 「おはよう」 「明けましておめでとうございます!」 「あけましておめでとうございます。今年もよろしくお願いします」  知也が新年のあいさつをすると、麻里子は挨拶をした。今年は何かと重要になってくる。そう思うと、よろしくお願いしますの言葉が重く感じる。 「今年もよろしくお願いします」  丈二郎も挨拶をした。丈二郎は、今年の知也に期待していた。きっと共進学園に進んで、いい子に育ってくれるだろう。 「いよいよ今年は受験だな。最近、知也が頑張ってると聞いて、お父さん、嬉しく思ってるぞ」 「ありがとう。でも、本当のゴールは入試で合格する事だから」  知也は照れている。最近、成績が上がってきて、共進学園に合格できそうだと周囲から言われている。だが、最後まで手を抜いてはいけない。入試が全てだ。入試でその力を発揮できなかったら、すべては水の泡だ。 「うん、そうだな! いい事言った!」 「ありがとう!」  知也は椅子に座り、おせちを食べ始めた。すると、両親もおせちを食べ始めた。いつもの正月だが、入試のある今年は特別に見える。 「何度も言うけど、お父さんお母さん、期待してるぞ! 受験、頑張れよ!」 「わかってるって」  知也はくどいと思っていた。だが、こんなに両親が期待しているのなら、頑張らねば。これは自分の人生を決める大事な時だ。 「でも、今日と明日とあさってはゆっくりしなさい。正月休みなんだから」 「わかった!」  知也は考えていた。正月三が日までは勉強を休もう。そして、その先の受験に向かって頑張ろう。  おせちを食べて、知也は部屋に戻ってきた。知也は両親からもらったお年玉の入った封筒を持っている。部屋にはいつものように奈美恵がいる。 「おせちを食べてきたの?」 「うん」  奈美恵は下の雰囲気からそうだと思った。生きていた頃、両親とおせちを食べたのは、いい思い出だったな。だけど、もう食べられない。悲しいな。 「おいしかった?」 「もちろんさ!」  知也は嬉しそうだ。そして、そんなおいしいおせちを作ってくれた麻里子のためにも頑張らないとと思ったようだ。 「私の所のおせちもおいしかったわー。特に最後のおせちは豪華だったわ。まるで私が教員になるってのを祝福してくれているようで」 「ふーん」  奈美恵は、最後の年のおせちの事を思い出した。まるで自分の門出を祝っているようだ。だが、その門出を見る事なく人生を終えてしまった。 「でも、あれが最後のおせちになるなんて。まるで自分を送ろうと思ってるみたいで、今思い出すとつらいおせちのようで」 「いやいや、そんな意味でのおせちじゃなかっただろう。これから頑張っていけよって意味のおせちだと思ってるよ」  知也は、泣きそうになった奈美恵の頭を撫でた。その時、奈美恵は思った。ひょっとして、知也は私の事が好きなのでは? 「そうだけど、私は夢がかなわないまま死んじゃったんだよ」 「わかるわかる。その気持ち、わかる」  知也は、奈美恵の気持ちがわかった。教員になりたかったのに、道は開けていたのに、その夢がかなわないまま死んでしまった。 「ありがとう・・・」 「僕、頑張るから、奈美恵先生、立ち直って!」 「わかった・・・」  奈美恵は顔を上げた。やっと立ち直ってくれた。知也はほっとした。奈美恵が頑張らなければ、自分も頑張れない。一緒に頑張って、共進学園に合格しよう。そのために夏休みから頑張ってきたじゃないか。そして、合格して、喜びを分かち合うんだ! 「また4日から頑張ろう!」 「うん! そうだね! 合格するまでがゴールだもんね」 「そうだそうだ!」  奈美恵も思った。合格するまでがゴールだ。勉強するだけで合格できるってもんじゃない。 「3日まで休むけど、それまでは何をするの?」 「ゴロゴロする。それだけ」  3日までゴロゴロするのもいいかな? 勉強ばかりでは頭が固くなってしまうだろう。ここで気分を晴らして、また頑張ればいいじゃないか。 「ふーん。私の正月3が日もそうだったわ」 「そっか」  どうやら、奈美恵の正月もそうだったみたいだ。自分と一緒だな。
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