憧れの舞台

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「これで役者がそろった。これからしばらくおまえらにはお化け屋敷でバリバリ働いてもらってパンとジュースのお金を返してもらうぞ。もちろん利子もつけてな。劇場内を駆け回って、しっかりお客さんをビビらせろ。ウヒャヒャヒャ」  吉田の奇妙な笑い声のあと、ブチッと頭の中で大きな音がして、僕の意識は電源が落ちるように暗闇に切り替わった。それからすぐにパチリと電源が入る。  僕は舞台に転がる自分の体をぼんやり見つめながら、むくりと起き上がった。青白い顔をした友人たちがすぐそばに立っている。 「やあ、なんだか久しぶり」  香川と門田に足はなかった。そういう僕にも足がない。  あ、魂が抜けちゃったんだ。僕は茫然と宙に浮かんでいた。 「猿渡、おまえは端役(はやく)だからな。ここに入るとき決めたよな。は・や・く。いいな。それで香川と門田はメインで怖がらせろ。しっかり声を出していけよ。断末魔の叫び、練習しただろ。猿渡は端役だから客の首筋とか背筋を撫でる係だ。こそこそ動き回れ。おまえにぴったりの役だ」  お化け屋敷に入るときに言った吉田の言葉を思い出す。  あのときの「はやく」は、『早く』じゃなくて『端役』だった。  それにしてもまさかこんなかたちで憧れていた劇場の舞台に立つなんて。 「吉田。本当にしばらくのあいだだけなんだよな。うそじゃないよな」 「うそ? なんで俺がうそをつくわけ? もしかして猿渡は俺を信じてないわけ?」 「いや、信じるよ」 「よし、じゃあ契約成立だ」  吉田が何者になったのか。そんなことはどうでもいい。とにかくいまは吉田の言葉を信じて幽霊役に徹するしかない。もとの体に戻りたいから。  こうして僕は幽霊役として期間限定で役者デビューすることになった。
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