ノスタルジックスクールゾーン

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 目を開けると狭いロータリーが目の前にあった。エンジン音が聞こえたと思えば商店街の狭い通りからバスがのっそりと入ってくる。ふぁんふぁん。警笛まで記憶のままの音で聞こえる。  ロータリーの正面にはチェーンのパン屋が構えている。パン屋のガラス窓側には焼きたてパンが二段綺麗に並べられ、道行く人にその魅力をアピールしている。パン屋の右にはクリーニング屋、本屋と並び立ち、商店街が続いていく。クリーニング屋の反対側にももちろん商店は並んでいて、傘も扱う鞄屋と百円クレープを売っていた果物屋がちょうどロータリーの出口になる。細い道を挟んでファーストフード、こちら側には銀行の支店。  背後からは電車の立てるモーター音が聞こえてきた。そして駅のアナウンス。辺りは雑然とした環境音で満ちている。 「嘘だろ」 「嘘みたいでしょう? 通学路は完璧ですよ」  呟いた八田の低い声に、若者らしくテノールの張りのある声が笑みを含んで返された。小松と名乗った八田付きの担当官は八田の後ろからさぁと手のひらを見せて促してくる。
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