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「僕はあちらで龍の子どもになったんだ」
不思議にふわふわとした笑顔を保ちながらそう言った兄は、「お茶でも飲みにいかない?」と私を家の外へと誘った。
「お父さんとお母さんに気付かれちゃうから」と人差し指をたてて口元にあてる。
あぁ、あなたがここへ来たのは内緒にしなくてはいけないことなのね、と私は切なくなりながらも頷いた。
ひそひそ話の声の音量、大人を真似たウィンク、「秘密」の合図の人差し指。
まるで幼いあの日のような仕草に私は安堵を覚える。言われるまま私は靴を履いて表へ出た。
十年会っていなくても、唐突に現れたとしても、間違えはしない。
このひとは私の兄だ。
きらきらと夕日を受けて輝く龍の鱗は、兄の腕にも首にもあった。きっと服の中、背中などにもあるのだろう。私は兄の後ろを付いて歩きながら、その輝く紋様を綺麗だなと見つめていた。
「隣を歩いてくれないの?」
兄は振り向き、そんなことを口にする。
「昔はよく手を繋いで歩いたじゃないか」
そうだねお兄ちゃん、と答えて伸ばしてくれた手を取りたいけれど、なにかが私を留めてそれをすることができない。
「もう手を繋ぐのは恥ずかしいのかな」
兄はわざと勘違いをして、寂しそうにする。
「……だって私、もう十七歳だもの」
私もその勘違いに乗って答える。
「そういえば僕ももう十九歳だ」
「大人になったね」
「大人になったよ」
あの頃ずっと一緒だった私たちは、もういない。
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