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某舞浜のテーマパークでも、マリアはアトラクションから手を振っている人に手を振り返すのが好きだったしマリアもアトラクション体験中はノリで手を振っていた。今はそんな気分だ。丁度遊園地内をゆったり回る観光馬車のアトラクションに乗っている気分になって、マリアの気持ちは益々高揚した。
「嗚呼、なんだか楽しくなってきた。お祝いには何が必要?」
マリアはドレスの下に隠れる、太腿に取り付けたカードホルダーの中の魔神に語り掛ける。
「そうよね、お花よね! アナタもそう思うでしょう{花}!」
マリアの呼び声に、魔神はすぅっと姿を現す。それは掌サイズの大きさの少女で、身体が花びらで構成された妖精のような姿の魔神だった。彼女はニコリと微笑むと、マリアの手を握る。その手の温もりを一度抱き寄せると、マリアはぱぁっと窓の外に花を撒いた。
「♪小さい頃は神さまがいて 不思議に夢をかなえてくれた
♪やさしい気持で目覚めた朝は おとなになっても 奇蹟はおこるよ」
{花}によって道端の草も芽吹き花を咲かせる。マリアが撒いたバラやガーベラ、カーネーションやラベンダーを両手でキャッチした子供はキャッキャとはしゃいでさらにマリアに手を振ってきた。だからマリアは手を振り返す。
「♪カーテンを開いて 静かな木洩れ陽の やさしさに包まれたなら
♪きっと 目にうつる全てのことは メッセージ」
マリアの歌声は波のように広がって、それがより一層花を活気づけた。既に切り取られた生花も更に美しく咲き誇り、手に持っていた花束が急に豪華になったことに首を傾げていた青年を、マリアと{花}はクスクス笑う。
「♪小さい頃は神さまがいて 毎日愛を届けてくれた
♪心の奥にしまい忘れた 大切な箱 ひらくときは今」
マリアは無邪気に花を撒き続ける。街の中はちょっとしたパレード状態となった。花嫁を連れてくる白い馬車はただでさえ吉兆の印とされているのに、その中に乗る花嫁が通るだけで花々が息をして華麗に色付くのだ。
「すごい……!」
「女神様みたい……!」
誰もがその姿を惚けたように見つめた。白いベールの下に貞淑に隠された素顔を想像して色めき立った。彼女の歌声もまた素晴らしかった。
「♪雨上がりの庭で くちなしの香りの やさしさに包まれたなら
♪きっと 目にうつる全てのことは メッセージ」
赤い唇から紡がれる柔らかな歌は、街の人々を穏やかにしてみせた。
「ほぅ……」
それを見ていた男は掛けていたサングラスを外し、馬車をもう一度よく見る。本日婚約の為にこの街の大聖堂を訪れる少女は、ダントルトン家の次女だと情報が来ている。サティサンガ家の長男と大司祭の取り仕切る中で契りを結び、将来を誓い合うはずだ。その少女が、あの娘らしい。
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挿入歌:やさしさに包まれたなら
作詞:荒井由実
作曲:荒井由実
歌詞参考:https://www.uta-net.com/song/5808/
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