1/1
前へ
/4ページ
次へ

日曜日の朝、私と博貴はいつも通り、トーストを食べていた。結婚する前、朝食はごはん派だったが、博貴がパン派なので合わせるようになった。 テーブルの上には、私が取り寄せた、限定のピーナッツバターがある。彼はそのピーナッツバターを惜しげもなくトーストに塗っている。 私の頭には、昨日の夜の出来事が浮かんでいた。私が活動しているネット上の読書サークル、そこで最も仲が良いメムリンさんに、今の私の悩みを相談したのだ。すると彼女は、『旦那さんとラブラブになれるように一緒に頑張ろう』と応援してくれた。それはもちろん嬉しかったのだが、その後に続く言葉にドキリとした。 『買い物でも誘ってみたら?』 その言葉に、顔が一気に熱くなる。普通の夫婦なら、普通のことだろう。しかし、私たちは、恋人関係もすっ飛ばして、こうやって仮面夫婦をしているのだ。一緒に買い物なんて、まさにデート、想像するだけで心臓がはじけ飛びそうだ。 博貴の顔色をうかがうと、無表情でトーストをかじっている。 「ねえ」 私がそう声をかけると、博貴は「ん?」とトーストをかじったまま言う。 「今日、もし時間あれば、洋服を一緒に買いに行かない?」 「げほっ、ごほっ」 博貴が急にむせ始める。 「ちょっと、大丈夫?」 私は慌てて彼に駆け寄る。 「ああ、うん。大丈夫だ。それより、今なんて言った?」 「えっ、一緒に洋服を買いに行かないって」 その瞬間、彼の表情が固まる。 「いや、忙しいなら別にいいんだよ」 「あ、いや、特に用事もないから、大丈夫だけど」 「そう、なの」 「何時から行くんだ?」 彼が、何だか尋問するみたいな口調で言ってくる。 「えっと、ショッピングセンターが10時に開店だから、9時30分くらいに家を出られたらいいかな」 「ああ、分かった。準備してくるよ」 そう言って、彼は自分の部屋へと戻る。リビングには、私一人きりとなった。 買い物に、誘うことはできた。しかし、全く嬉しくなさそうな彼の様子を見て、私の心はすっかり沈んでいた。
/4ページ

最初のコメントを投稿しよう!

31人が本棚に入れています
本棚に追加