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目を覚ますと研究施設を思わせるような真っ白い部屋にいた。
着ている白衣は何故か焦げていて、髪もチリチリだった。
「どこだここは……俺はなんでこんなところに――はっ!?」
背後に気配を感じ、振り返った俺はアニメか映画に出てきそうな人型のメイドさんっぽいロボットの存在に気付く。
無数の配線がむき出しのそれはどうやらまだ作りかけらしいが、俺は目を奪われた。
「……なんだこれは」
それは昔、俺がまだ工業高校生だったころに友人と夢想したメイドロボットにそっくりだった。某自動車メーカーのパーツを制作する下請け三流会社に就職した俺にはもう決して届くことのない金のかかりそうな……
「いかんいかん、どこの誰のともわからないんだ、むやみに触って壊したらまずい……」
流麗なアームやレッグパーツを撫でていた俺は、意識的にメイドロボットから離れる。
すると、メイドロボットの後ろにあからさまなテレビが置いてあることに気付いた。
……怪しい。
「えい」
ぽち。
電源を入れると、画面にノイズが奔り、ひょっとこの仮面をつけ、ワイングラスを片手にした恰幅の良い男が映し出された。
『久しぶりだな正人くん……突然だが君を拉致させてもらったよ。君、オタクだからこういうシュチュエーション大好きだろ?』
テレビの中の男は語り掛けるようにそう言った。
「なんで俺の趣味嗜好を知ってるんだお前!」
と、言い返してみたものの、どうせこれは録画だから無意味な行為だった。
『僕は事業に成功して巨万の富を手に入れてね……暇だったから趣味で個人的なロボット開発に――』
俺を拉致した経緯をかいつまむと、プラモや小型ロボットを制作する動画から手先の器用さを見込んだという事らしい。どうやって俺の家を突きとめたかはわからなかった。
しかし、聞き覚えのあるような、ないような声だ。
首をかしげていると、テレビの向こうの相手は仮面を外して素顔を晒した。
『さあ、君ならできるだろ正人君! 昔語り合ったメイドロボットを現実にしようじゃないか! はーはっはっは!!』
「お、お前は! ……名前は忘れたけど、昔俺とメイドロボットについて語り合った隣の席のクラスメイト……か?」
なんとなく目元や笑い方に面影を感じる。
そっか……、あの影が薄くて、引っ込み思案だったあの子が、人を拉致するような社長に……時間の流れって人を変えるんだなぁ。
「それじゃあ、よろしく」
映像が途切れ、テレビの画面は真っ黒になった。
一方的によろしくって言われても……。
「……まあ、願ったりかなったりだな」
どうすればこの部屋から出られるのかとか不安もあるが、そんなことよりも俺は足元の工具やネジや基盤などのパーツを見下ろし、いくつかを手に取ってメイドロボットに相向かった。
ひとまずメイドロボットを作り上げる方が先だろう。
男のロマンは何においても優先される。
「うーん、お? ほとんど外装は出来上がってる感じだな……接合部も大丈夫そうだし……中の配線は……あ~、なるほどね、まだ中がうまく繋がってない感じかぁ……」
黙々と作業を進めていく。もう何時間経ったかはわからない。額に浮いた汗をぬぐいながら、配線を繋げていく。
「どれどれ? お、この部分の配線のねじれ凄いな。ほぐして、つなぎ直せば……」
配線と配線をくっつけようとしたその時、俺の額から汗が一滴落ちた。
目を眩ませるような閃光と、バジジジジ!! という音、脳を震わせるような痛みが一瞬で俺の体を駆け巡る。
「あびゃびゃびゃびゃびゃ!!!?」
視界が真っ白に染まった。
……。
…………。
………………。
目を覚ますと研究施設を思わせるような真っ白い部屋のなかにいた。
着ている白衣は何故か焦げていて、髪もチリチリだった。
「どこだ、ここは? 俺はなんでこんなところに……なんだこのロボットは!? ん? テレビがあるぞ……えい」
ポチ。
電源を入れると、画面にノイズが奔り、ひょっとこの仮面をつけ、ワイングラスを片手にした恰幅の良い男が映し出された。
『久しぶりだな正人くん……突然だが君を拉致させてもらったよ。君、オタクだからこういうシュチュエーション大好きだろ?』
テレビの中の男は語り掛けるようにそう言った。
「なんで俺の趣味嗜好を知ってんだお前!!」
その時、白い壁の一面が自動ドアのように開いて、ワイングラスを片手にした恰幅の良い男が部屋の中に入ってきた。
「何回繰り返せば気が済むんだ君ぃ!」
「お、お前は……!?」
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