1/9
0人が本棚に入れています
本棚に追加
/9ページ
 あれは、修学旅行の時のことだった。四人グループで自由行動をしていて、そろそろホテルへ戻らねば、という時。「このまま電車とかバスじゃ間に合わなくない? タクシー乗ろうよ。タクシー」と、誰かが言った。二人はそれに同調した。私はそれに、従った。  三人は後部座席に吸い込まれた。となると、私は自動的に助手席に腰掛けることになる。別に、それ自体はかまわない。前の座席のほうが、景色が良く見えるから。普段は見ることのできない、ここへ来るまで知らなかった街を、よくよく見ることができるから。  ホテルに着く――それすなわち、乗車賃を支払う時がやってくると、「ミナちゃん、払っといて~。あとで払うから~」って、誰かが言った。私は、助手席にいるから、誰よりも払いやすい場所にいる。言い換えると、みんなで乗り逃げしようとでもした時には、真っ先に捕まえられる場所にいる。 「わかった」 「よろしく」 『2300円ね』 「はい。ちょっと待ってくださいね」  支払いが終わるのを待たずに、三人は降車した。そして、私を待たずに、ホテルへ消えた。  修学旅行なんか、クソくらえ、と、準備の段階から思っていた。しかし、どうせ行かなければならないのなら、少しくらいは楽しもうと、強引にテンションをあわせていた。そんな無理が、瞬間、ガタガタと心の中でだけ音を立てながら崩れて落ちた。  やっぱり、修学旅行なんてクソくらえ。こんなの、修行旅行だ。強制されたこっちの身にもなってほしい。最悪だ。この旅行のために払ったお金がもったいない。もしも私が自由に使えるお金であったなら、もっと有意義に使ったのに。
/9ページ

最初のコメントを投稿しよう!