2/9
0人が本棚に入れています
本棚に追加
/9ページ
 修学、と付くのだから、ここへは勉強をしに来ている。旅行という言葉が付いているけれど、それはおまけの部分であって、先に書く修学――つまりは勉強の方が主目的なのだ。と、私は認識していたが、周囲は学生だけが教員の引率でもって旅行に行くお楽しみ会とでも思っているようだった。私以外は、有意義にこの瞬間を過ごしているように見えた。  そのお楽しみ会に、仲良しじゃない人間なんて、要らない。学校単位で、学級単位で行動を決めるから、どうしても浮いてしまう人間を、仕方なく混ぜてやっているだけ。そう、私は、この旅行が始まるずっと前から、邪魔者だった。邪魔者じゃないって思えていたとしたら、私は修学旅行なんてクソくらえって、思わなかったのだろうかと、瞬間、考えた。本当に、刹那。だって、邪魔者じゃない今を、思い描けなかったから。空想に沈んだって、現在は変わらないから。  邪魔者であることなんて、今に始まったことではない。だからもともと私は空気でいようと努力してきたし、今とてそうだ。みんなが心地よく過ごせるように、存在が邪魔であることは仕方ないにしても、必要以上に邪魔しない。欲しいキーホルダーを探すためにお土産屋さんをもう少し見たいと思ってもグッと我慢したし、作りたくもないアクセサリーを作ったし、食べたくもないシュークリームも食べた。煙草の先からゆらゆらと出ている煙みたいに、金魚のお尻にくっついたままのウンチみたいに、ただひたすらにみんなの後ろにひっついて。  辛くないといったら、嘘になる。けれど、これが私的生存戦略だったから、別にこんな“今”でも構わないと思っていた。卒業するまでの邪魔者生活。耐えればいい。そう、この物語には、必ず終わりがあるのだから。  そうやって、強がって、殻を固めてきた。そうすれば、どうにか日々の様々な嬉しくない出来事を受け入れることができていた。  でも、お金が絡むと、なんだかモヤモヤしてしまった。  降車をスムーズにするために、車内で割り勘しないのは、いい判断だと思う。でも、じゃあ、降りた後、可及的速やかに割り勘すべきじゃないのか。別に、割り算までやってくれなんて言わない。そのくらい、私がやる。一円単位まで割ると細かくなりすぎるからって、ちょっと安くされたって、別にいい。十円そこらとかまで、ケチケチと請求しようとは思わない。とはいえ、普段そんなに交流がないこともあって、みんなは私がそういう人間と知らない。  互いによく知り合っていて、普段から遊んでいるのなら、この場の支払いをまかせたとしても、どこかでチャラにできるだろう。でも、私たちはそういう関係じゃない。だからこそ、ここではしっかりとしておくべきなんじゃないか。「払ってくれてありがとう」と、すぐさま財布を出すべきなんじゃないのか。  なんで私は、みんなの分までタクシー代を負担して、みんなからお金を受け取れるでもなく、ひとり寂しくトボトボと、ホテルの中に入っていかなくてはならないのだろう。私は邪魔者であるだけではなく、いつの間にやら金づるにもなっているのだろうか。
/9ページ

最初のコメントを投稿しよう!