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 先輩と二人きりになる。するとなぜだか、先輩とは仕事の、同じ会社で働いているだけの関係であるという事実が、薄くなっていくような感覚に堕ちた。  まるで、友だちと二人で久しぶりに飲みに来たみたいな感覚。全然、友だちじゃないのに。先輩なのに。どうしてだろう。先輩がほろ酔いで、いつも見ない表情だから? ふわふわしていて、シャキッとしていなくて、そのせいかなんだか少し、幼く見えるから? 「それで? ミナミナは、昔何かあったの? あー、わかった。なんか、あれでしょ。タクシー系でしょ~? そんな気がする。さっき、ちょっとビクビクしてたもんね」 「私、ビクビクしてました?」 「うん。普段からね、なにかに怯えてる感じがするな~って、思ってた。はじめの頃はさ、単に緊張してるんだろうな、って思えてたんだけど、だんだんさ、なんか違うな~、そういうんじゃないな~って気がしたんだ。なにか、こう、どうしてもビクビクしちゃうことがあるんだろうなって。なにか、嫌なことがあってさ、そういうのをまた経験しないようにって自分を守るために、殻を厚くしてる、っていうの? だからあたし、いつか職場じゃない場所でゆっくり話してみたいな~って考えたりしてたぁ。あたしはさ、なにか嫌なこととかあったら、誰かに聞いてもらうの。そうしたら、心がグチャグチャになっても、整理できるようになる気がするから」 「そうなんですね」 「それで? ミナミナのビクビクのタネの話、あたし、聞いてもいい?」  土足だとは思わない。けれど、ずいぶんとズカズカと心に踏み入られそうになっている気がする。
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