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オリジナルブレンドのハーブティーと島の店で買ったシンプルなクッキーでもてなしながらファロディは2人の様子を窺う。うれしそうにお茶と菓子を楽しむ様子は和むがサイフィアの傍にいるはずの2人が何故東の最果てのリストレスにいるのか。
「ヴァンがファロディの足取りを追って、痕跡が追えなくなったところから、みんなでファロディならどこに向かうか推理合戦をした……」
「しかし、一発で逢えるとはな。俺達は王の特使でもある。お前にこれを渡しに来た」
ポイッと丸めた書状が投げられてファロディは片手で受け止め、少し緊張した面持ちで封を解いて書面に目を通した。そこには王の御璽とサインと共に一言。
『大魔術師ファロディ・レングレートに我が国の外円防衛の任を与える』
目を瞬かせるファロディにアルフォードがニッと口角を上げた。クローディルも微かに笑っている。
「お前を手放す訳ねーだろ、あいつが」
スッとクローディルから差し出される封筒。
「サイフィアから」
王からではなく、サイフィアから。ファロディはらしくなく震える指で封を切る。深呼吸をして二つ折りの手紙を開いた。懐かしい筆跡だ。
『ファロディへ
君のことだ。どこにいても飄々と健やかに過ごしていることだろう。本当はすぐにでも君を追いたかった。だけど、王とは不自由なものだ。世界を平和にする……それを続ける責任が僕にはある。民を優先する王でありたい。
格好良いことを言ったけれど、君がいきなりお暇してとても動揺した。怒りもしたし、混乱もしたし、悲しかった。でも、君が理由なく行動することはない。それは絶対だ。……僕の新たに得たスキルが理由だね。ファロディ、君は魔法を使えなくたってアルの相手ができるほどに強い。それでも、君は誇り高い大魔術師だから全力で守れないことが許せなかった。そうだろう?
ああ、ファロディだなって思ったよ。納得したけど、納得したくなかった。だから、決めたよ。僕はこの無効化のスキルを手放さずにコントロールする。国も、ファロディの想いも守ってみせる。僕は何ひとつ諦めたくないから。
ファロディ、友よ。必ずまた逢おう。どれほど離れていようとも、どれほど逢うことが叶わなくとも心は隣にいると信じている。
サイフィア・ロットランド』
「隠居させてはくれないか……人使い荒いやつだな」
勢いよく立ち上がり、くり抜かれた窓の外を見るふりをして仲間に背を向けた。潤んだ目を見せたくなかったから。手紙の文面だけでサイフィアの揺るぎない信頼に満ちた笑みが目に浮かぶ。うれしいが悔しい。いつか何食わぬ顔をして訪ねてやろう。
「久しぶりだ。王様はうまくやっているかい」とでも。
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