星の裏側から恒久の友情を。

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 東の果ての海に囲まれた島、リストレス。かつて賢者がいた島であり、今は大魔術師ファロディが住んでいる。荒廃(こうはい)する世界を変えたいと仲間たちと旅をし、平和な大国が花開いてから3年。とある理由でひとり出奔(しゅっぽん)したファロディは賢者の残した記録を研究しながら、時折大きな魔法を西に放ちながら悠々自適(ゆうゆうじてき)な日々を満喫していた。  (さび)れた石積みの塔は手入れされ、塔の周りには幾種もの野菜や果物が育つ畑、薬草園が広がりのどかな雰囲気(ふんいき)だ。ファロディは畑を見回って伸びをする。  「浅瀬の近くに小屋作れたらいいんだけどな」  欲を言えば小舟も欲しい。けれどファロディはそういったスキルは持ち合わせておらず、そこに在るもので満足して暮らしている島民に頼むのもなんとなく気が引けた。ふっと微笑う。木を使うものなら何でも加工できる仲間がいたなと思い出したからだ。  反乱の旅の途中、壊れた家や倉庫を片っ端から建て直していった。なんで剣士がそんなスキルあるんだ? と話題になったものだ。  確か、山守(やまもり)の家系で剣士に(あこが)れ、鍛練(たんれん)代わりに木を()りすぎて怒られたので無駄にならないように加工することにした、だったか。結果、剣術の力も(すさ)まじく、木を使った加工の腕も高みへと向かったのが全てを穿(うが)つ剣士アルフォード・ルーク。朱色の髪の毛が必ずどこか跳ねている小動物のような茶色の目だけは可愛いマッチョ。  「あー、懐かしいなー」  ひとり思い浮かべればどんどん思い出していく。雲のようなふわふわ頭とメガネがトレードマーク、背の小さいのを気にしていた発明家エリューシャ・ロロ。見目の良さ、手先の器用さと身軽さ、(だま)しのテクニックを使ってひらひら舞う幻術盗賊の頭だったヴァン・シード。気配の無さにはファロディも悩まされた希薄(きはく)の暗殺者クローディル。優雅な二刀流使いセシル・ラサ。どんな時でも美味しいご飯を用意する無口な武闘家サイレン・ボウ。癒しの力を凌駕(りょうが)する医術の腕を持つ双子の(いや)し手マーロウとシューリア。飛び道具ならなんでも無敵、面倒くさがり屋が玉に(きず)な逆転の(にな)い手グリート・フォード。そして、個性豊かな仲間を信じ、一切の妥協(だきょう)なく平和な世界を夢見て進む人々の導き手サイフィア・ロットランド。 ……元気にしているだろうか。  「……魔封じ」  冬の白い息のように(はかな)い小さな声がするのと同時にファロディの体がずんと重くなる。ついで(せま)る殺気に咄嗟(とっさ)に身を(ひね)り、近くの地面に落ちていた(くわ)(つか)んで振り切った。ガンッと大きな音がして振り下ろされようとしていた大剣が(わず)かに動きを止めた(すき)を見逃さずとんぼを切って間合いを取る。着地と同時に左肩に貼られた札を引きはがし破り捨てる。そして、前に(そろ)い立った相手を見て目を見開いた。  右の(ひたい)辺りの髪が(つの)のように跳ねているマッチョがあきれたように笑って大剣を背中のケースにしまい、紫がかった肩ほどの黒髪を揺らして首を(かし)げる表情が(とぼ)しい少女がいた。  「普通は剣士の一撃を(くわ)で止められるもんじゃないんだからな?」  「エリューシャに作ってもらった(ふだ)、魔封じ成功10秒……成功?」  ファロディは驚きで固まっていたが、それを通り過ぎたら別れてからほとんど変わらない仲間の姿に思わず笑っていた。  「久しぶりだ、アル、クローディル」  「3年ぶり……?」  チュンチュンと小鳥が(さえず)る空の下、クローディルはコテリと反対側に首を(かたむ)け、そんなマイペースな様子にアルフォードは苦笑する。とりあえず自分を(ばっ)しに来たわけじゃなさそうだとファロディは判断し、手で塔を指し示した。  「とりあえず、お茶でもどう?」
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