籠もり人

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 このようなメールを受け取るのは、何も初めてのことではない。  以前は面倒だからと受け取り方法4を選択したのだが、粉々になったガラス片が届いてため息をついた。いやいや、ここまで破損していたら、本人の確認などせず「運送事故がありました」と返品交換してしまえよ、と、自分が面倒ごとを棚上げしたことを棚上げして毒づいた。  私には代理人をやってくれる人なんていないから、4を避けると1か2を選ぶしかなくなる。そして、私は外へ出たくはないから、消去法で1になる。  本当だったら、それすら嫌だ。誰かと対面で話をしなければならないなんて、苦痛以外の何物でもない。  生きた本物の人間と最後に会ったのはいつだろう。このところ、アバターと合成音声がイコール人間になっていた。人間から呼吸を感じることはないといってよかった。対面。その時感じるだろう、生きた人間の吐息や体熱やテレパシー。ゾクゾクする。気持ち悪い。  はぁ、とキーを叩くたびにといっても過言ではないほどに幾度もため息をつきながら、受け取り方法指定フォームに必要事項を入力していく。管理番号やら、本人確認のためのユーザー情報、その他もろもろ。  すべての欄を埋め、今日一番の毒を吐きながらエンターを押下しようとした瞬間、スクリーンが明滅した。  チカチカとすればするほど、ブクブクと不安が膨らむ。  荷物はいったいどういう状態なのだろう。梱包材が破損したとか、梱包材に他の荷物から漏れた何かが付いたとか、その程度ならばいいのだけれど。  荷物の破損となったら、辛い。 『承りました』のあとにつらつらと文字が連なったメッセージが、スクリーンに表示されるや、また明滅。  このスクリーンは、あとどのくらいもつだろう。もしも粉々のガラス片が届いた時のように、粉々になっていたとしたら。私はしばらく、世界から隔絶される、ということだろうか。いや、その程度の話では済まない。スクリーンがなければ、この世界では何もできないのだから。スクリーンを買い替えることが出来なくて、本人確認ができなくなって、食料を買うことすらままならなくなって、ひっそりと死んで、地下配送ルートから遺体を運び出された人だっている。  このままでは私も、地下配送ルートで運ばれる人体となりかねない。  そんなの、いやだ。
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