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「神尾さま。改めまして、陸路配送担当の加藤と申します。この度はご迷惑をおかけし、申し訳ありません」
言いながら近づいてきて、深々頭を下げたのは、人間だった。久しぶりに見る、本物の。
「こんにちは。こちらこそ、わざわざありがとうございます。こちらから配送センターへ伺えばいいものを、来ていただいてしまって」
「いえいえ。皆さん外に出たがりませんからね。配送時にトラブルがあったとご連絡をすると、ほとんどの方が陸路配送を希望されます。配送センターに確認に来る方はとても珍しくて、2を選択したという情報が入るなり、『明日は配送ルートが故障するぞ』なんて配達員たちの一番の話題になるくらいです。実際、そのような“珍しいこと”が起きた後、故障や異常が起きることがあるんですよ? 不思議なことに」
「へぇ、そうなんですね」
「外に出たくないだけではなく、人と会いたくないからって、代理人を立てる方もいらっしゃいます」
「へぇ」
「おうちの中には居るんですけど、こうしてロビーとか、玄関前とか。そういうところに出てくるのは本人ではない、というパターンです。人間は、というと主語が大きいんですけど……いつからこんなに人間嫌いになっちゃったんですかね。なんて、元籠もり人が言っていいセリフじゃないですね」
はは、と笑いながら、配達員・加藤は汚破損の可能性があるという荷物を私に差し出した。
地下配送ルートに荷物を載せるのに、専用のコンテナなどは必要ない。梱包された荷物をそのままルートに流す。いつのことだったか、この荷物の送り方を、回転ずし方式だ、と誰かが言っていたような気がする。たしか、地中に荷物用の川が流れていて、どんぶらこ、どんぶらこと流されていくようなものなのだ、という例えもあった。
どんぶらこ、と流すがゆえに、上流で破損があると、下流の荷物が汚損することがある。さて、今回の汚破損とは、どんなものだろう。
手渡された荷物の梱包材をぐるり見る感じ、だいぶ上流で液体物が入った荷物が破損したか? 液体が染みた跡がある。角がひとつ、液体にふやかされたせいだろう、ぐにゃぐにゃと潰れ、しわになっていた。
「商品の状態も、確認していただけますか?」
「ああ、はい」
開梱し、中を見る。マトリョーシカのように、箱の中に箱。
箱に隠れていた箱には、スクリーンのイラストが描かれている。生き続けるために買った、新しいスクリーン。
内箱を手に取り、ぐるり見る。こちらにも、僅かに液体物のシミがある。が、中の商品を損傷させるほどのものとは思えない、ほんのわずかなものだった。
ほっとして、顔を緩ませながら、
「箱がちょっと汚れてるだけですね。問題ありません」
「そうですか。それは良かった。商品がスクリーンだと申告されていたもので、けっこう焦ったんですよ」
「焦った?」
「いやぁ、だって……。神尾はギリギリにならないと注文しないと思ったから」
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