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しばらく沈黙が走った。ぱちぱちと燃える火の音、流れる音楽、生徒たちの笑い声――心地良い後夜祭の音の中、吉春が言った。
「やっぱりな。そう思ったよ」
吉春の顔を見れずにいると、吉春が由麻の顎をくいっと指で持ち上げた。彼は笑っていた。
「宇佐がうらやましー。こんなに由麻ちゃんに一途に想われて」
「……ごめん」
「んーん。俺、宇佐のこと好きな由麻ちゃんのこと好きになったから。宇佐のこと大事すぎて、悪口言われても反論しちゃうような由麻ちゃんに、俺のこと好きになってほしいなって思った。でも、無理なら仕方ねぇよ」
その感情には覚えがあった。由麻も、彼女のことを溺愛する宇佐の姿を見てより宇佐のことを好きになったから。
「マジでいーの? 俺、こんなにいい男だけど」
「うん。私、ほんとに勿体ないことしてるなって思う」
「けど、宇佐のこと忘れられないんだ?」
「うん。こんなに宇佐さんのことまだ好きなのに、その気持ちを無視して吉春と付き合うことはできない」
「『これからもいい友達でいてほしい』、『今恋愛は考えられない』、『友達として大好き』」
「……え?」
「YESBUT話法も全然使ってねぇじゃん。ゼロ点!」
「あ…………」
夏祭りで、吉春に人のフり方を偉そうにアドバイスしておいて、そんなこと頭から消え去ってしまっていた。
吉春がにかっと笑って言う。
「やり直しな」
「ええっと……ごめん、気持ちは嬉しい。ありがとう。でも、やっぱり宇佐さんがまだ好きで……」
「うん。それで?」
「吉春のことは凄く良い人だと思うし、友達として大好きなんだけど……」
「それで、どーしてほしいの」
「…………これからも、いい友達でいてほしい……」
小さな声で言うと、吉春は由麻のセットされた髪をぐしゃぐしゃに撫でた。
「いーよ。友達な。時間かかるかもだけど、マジの友達になろ」
「……吉春ってイケメンだ」
「今更気付いた? やっぱ付き合っちゃう?」
「ううん。付き合わない」
「即答かよ」
吉春が由麻の頭から手を離した。そしてふと、由麻の後方へ視線を移す。
吉春は苦笑いした。
「何だよ、おせぇじゃん」
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