視覚を奪われた男

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「さあ、ゆっくりと目を開けてみましょう」 男性医師の優しい声が病室内に響く。 包帯を全て除去された俺は、瞼を持ち上げさえすれば視界が復活する。 すぐにでも芹香をこの目で見たいという衝動にかられ、一気に目を見開けば、スポットライトのような光が俺の目を貫いた。 「ま、眩しい……」 思わずギュッと目を瞑ると、 「今は瞳孔が開いていますからね。すぐには目が見えないかと思います。ゆっくりでいいですよ」 人気のある先生なのだろう。 患者の不安を取り除き、包み込むような柔らかい声だ。 瞬きを繰り返すと、真っ白だった世界は徐々に色を取り戻し像を結んでいく。 「見えてきたようですね。私は医師の樋口(ひぐち)です。初めまして、でいいですかね?」 俺の目の前には、茶髪のサラサラヘアが印象的な爽やかな青年がいた。 爽やか医師は微笑みを浮かべ手鏡を俺に向ける。 鏡を覗き込むと、そこには……。
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