ランチタイムの笑顔

1/3
1人が本棚に入れています
本棚に追加
/3ページ
 俺は、大企業の社員食堂で働いている。調理と販売を半々くらいで担当していて、その日は販売担当だった。  11時50分頃、食券を差し出したのは、今まで見た事のない顔だった。  俺は記憶力に自信があるので、食堂に来る顔はほとんど記憶している。でも、目の前に立つ女性は俺の記憶になく、そして慣れない場所に少しオドオドした様子を見せているので、おそらく中途採用で初めて食堂に来たと思われる。  俺は食券を受け取り、そこに書かれた日替わり定食を用意する。そして、あちこちを観察するようにキョロキョロする彼女の前に差し出す。 「お待たせしました、日替わりです」  その瞬間、彼女の表情がぱあっと明るくなる。それはまるで愛しい恋人に会ったような、幸せそうな笑顔。 「あ、ありがとうございます!」  そう言って彼女は、ウキウキした様子でトレーを受け取り、まだランチの混雑が始まる前の座席の空席を探し、座る。  そして、いただきますとしっかり手を合わせ、定食を食べ始めた。美味しそうなその顔に、俺も思わず笑みがこぼれる。食堂で働く俺にとって、そういう表情が見れるのは何より嬉しい。  それから、彼女は毎日、同じ時間帯に現れるようになった。日によって注文するメニューは違うが、それを目の前にした瞬間、本当に嬉しそうな笑顔になるところは変わらない。  俺はいつしか、その笑顔を見るのが、大好きになっていた。
/3ページ

最初のコメントを投稿しよう!