ランチタイムの笑顔

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 初めて彼女を見てから、一年が経とうとしていた。僕は変わらず食堂で働き、彼女の笑顔を密かな楽しみにしていた。  その日は、いつもより1時間も遅く、食堂が閉まってしまう時間が迫った頃に彼女はやってきた。  トレーを受け取った彼女は、いつもと違って、浮かない表情をしている。  俺は今まで一度も彼女に声をかけた事がなかったが、その表情に思わず声を掛けていた。 「浮かない顔ですね……大丈夫ですか?」  まさか声を掛けられると思っていなかったのか、彼女は驚き、それから困ったように笑って言った。 「今日でここに来るの最後なので……もう食べられなくなるんだなって思って……寂しくなってしまいました」 「そう、でしたか」 「毎日ここに来るのがすごく楽しみだったから、すごく残念で。だから、今日はいつも以上に噛み締めて味わいます。……いつも、ありがとうございました」  そう言いながらペコっと頭を下げて、トレーを受け取る彼女。  寂しそうに去る背中を、俺はカウンターの中から見つめる事しかできなかった。
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