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すっかり冷めてしまったコーヒー缶に口をつけると、苦くて甘くておいしくなかった。
何度、願っただろう。紫苑に会いたいと。
神様は残酷で不公平で曖昧だ。
近所の生活保護のじいさんが万馬券当てたんだって。印鑑を押すだけの部長はボーナス三桁貰ったんだとか。政治家は悪いことをしてもクビにすらならない。
もしも悪魔が存在するなら、代償と引き換えに願い事を叶えてくれるだけ良心的だ。今までも、これからも、私は搾取されるだけの人間なのだから。
「この私を良心的とは、変わった人間がいるものだ」
「ひっ……!」
振り向くと、そこには動く影絵が存在していた。至近距離にいるというのに、黒以外見えない。人間のような輪郭が炎のように揺らめき、形を認識することを許さない。
低く響く声は前からも後ろからも聞こえてくるようで、混乱した脳はそれ以外の知覚を諦めてしまった。屋上の床が、空が遠ざかっていく。
「お前の願いを叶えてやろう。けれど、わかっているな。代償なき成就はない」
それは、悪魔は笑ったようだった。クックッと喉を鳴らし、鋭く尖った指先を私に向ける。
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