7人が本棚に入れています
本棚に追加
「だが、実に残念だ。私は一人の人間と同時に複数の契約を結ぶことはしない。暴食は味を損ねるからな」
悪魔はくるりと身を翻し、私から離れた。一、二、三歩遠ざかり、仰々しく両手を広げる。
「私はなんて心優しい悪魔だろうな」
「一体、なにを」
「願いと引き換えにお前が失うもの。それは記憶だ。お前が誰よりも愛しく思っている、あの子の記憶を奪ってやろう」
言うと同時に、悪魔は指を鳴らした。
その音が歪み、何かが重く圧し掛かる。耐え切れず目を閉じると、瞬間、体が軽くなった。
最初のコメントを投稿しよう!