影絵の空

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「だが、実に残念だ。私は一人の人間と同時に複数の契約を結ぶことはしない。暴食は味を(そこ)ねるからな」  悪魔はくるりと身を翻し、私から離れた。一、二、三歩遠ざかり、仰々しく両手を広げる。 「私はなんて心優しい悪魔だろうな」 「一体、なにを」 「願いと引き換えにお前が失うもの。それは記憶だ。お前が誰よりも愛しく思っている、あの子の記憶を奪ってやろう」  言うと同時に、悪魔は指を鳴らした。  その音が歪み、何かが重く圧し掛かる。耐え切れず目を閉じると、瞬間、体が軽くなった。
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