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もう言えない
お手紙でこんばんは。
貴方と離れてから始めた一人暮らしは、学生の下宿とはまた少し違って、つまずきもありました。
大人の一人暮らしは、まず周囲に警戒されます。
サラ金から逃げてるんじゃないかとか、宗教団体の活動拠点にする気じゃないかとか、いろいろな噂がたちます。
まあ、きちんと暮らしていれば、そういった誤解は自然に解けていくようです。耐える間はしんどいものですが。
それから、食事。若い頃はわりとなんでも栄養になりましたが、この年齢になると、そろそろ過不足を考えて、調節しなければなりません。
そして……眠るタイミングを掴むのが難しいです。眠いけど、何か忘れている気がする日があります。室内をチェックして回って、ようやく寝支度にかかれます。
そんな暮らしにも、最近は慣れてきました。
私、やれるじゃん。なんてね。
そしたらね……
貴方に会いたくなったんです。
貴方と、貴方との子供に。
生活について学んだ今なら、子供が欲しい。
貴方と居た時、私は自信がなかった。
やればなんとかなると皆言ったけれど、自分がそんな見切り発車で上手くいくタイプでないことはわかっていました。
貴方と別れ話をした時、私は歌いだしましたね。さよならは別れの言葉じゃないと、また会うための約束だという歌を、おどけぎみに歌って、貴方に笑いかけた。貴方は、寂しそうに見えました。別れの悲しみを共有できなかったこと、今さら気になっています。
子供でした。
だから貴方と離れたけれど。
会いたい。
久しぶりに、そう思いました。
だけど、もう遅いんですよね。
久しぶりに会いたいと、貴方と未来を作りたいと、思ったんですけどね……。『久しぶり』を言うにも、期限があるんですよね。そんなことに気づきました。
なんだか、卒論の提出が間に合わなかったような気分です。
私は、卒業できません。
それでいい。
貴方への思いを抱いて生きるのもわるくない。
もしもどこかで会ったときは、迷わず「久しぶり!」と言います。
そう。
ただの挨拶として。
貴方の前で泣かないことを願いながら。
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