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 花宮くんがトークをしていると、男の子が奥さんの手を引き始めた。 「ママ―、スイハンジャー観たい」 「静かにね。時間はまだだよ」 「え~」  私は男の子の前でしゃがんだ。  ……しゃがむのキツイけど、笑顔笑顔。 「僕、スイハンジャーの誰が好きなの?」 「ゲンマイブルー!」 「『ぬかと胚芽は栄養満点だぜ。ゲンマイブルー!』」  男の子は、ゲンマイブルーの決めセリフを聞いて驚いた声を上げた。 「わ! おばさん知ってるの!?」 「(おば……)うん、知ってるよ~」  はしゃいだ男の子は、ゲンマイブルーの技を私に繰り出した。 「『ゲンマイスラーッシュ!』」 「ぐわぁ!」  スラッシュにやられた私は、胸を押さえて立ち上がった。 「『クク……流石だなゲンマイブルー。だが俺様のハラペコグーパンチを避けられるかな』」 「わわ! 怪人ハラペコリンヌだ!」 「『グーグーパンチ!』」 「『スラーッシュ!』」  私が男の子の気を逸らしているうちに、旦那さんは話に興味を持ったようだった。花宮くんに呼ばれて中谷さんが顔を出し、ご家族そろってモデルハウスの中に行くことになった。  男の子は私に振り返って手を振った。  花宮くんがご家族を見送った後、私に話しかける。 「横でチラッと聞いてたんですけど、戦隊ものが好きなんですか。詳しいですね!」 「ううん。勉強した」 「え?」  向こうで歩く、サフランイエローの服を着た女の子を見ながら私は言った。 「私、イベントのショーに出てくるヒーローの名前とか技を少しだけ調べてるの。さっきも言ったように、それ目当てで来る子が多いから」 「……そこまで頑張るって凄いっすね」  若干引き気味な空気を感じた私は、慌てて付け足した。 「だからって、花宮くんが真似しろとか思わないよ! ただの、営業下手な私なりの作戦だから。花宮くんは花宮くんの作戦で頑張れ」 「ありがとうございます! 俺も何か作戦や武器、考えたいと思います!」  こうして、無事三日間のイベントは終了を迎えた。
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