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……って、
「「隣かよ」」
私と黒崎の声が同時に被った。
そう、私の引っ越し先は、なんと黒崎の隣の部屋だったのだ。
私が業者さんを迎え入れるために開けた玄関先で、部屋着姿の黒崎にバッタリ出会ったのだ。黒崎はコンビニにこれから行くらしかった。
黒崎はあからさまにため息をついた。
「はあ、なんでダリが……」
「なんでって、ねぇ……ここ会社からも近すぎず遠すぎず、条件いいんだもん」
「それはある」
黒崎は頷いて納得した。
私は、暇そうな黒崎を見て、あることを思いついた。
「よし、黒崎手伝って」
「なんでだよ」
私は段ボールを運びながら言った。
「なんだかんだ、すみませんね」
「ホント。飯おごれよ」
そう、彼はお願いすればきっと助けてくれる。そんな奴だ。今日で引っ越し作業を終わらせたいため、今回ばかりは手伝ってもらった。
黒崎は段ボールを置いて、部屋を見渡した。
「荷物多くね?」
「そう?」
「何、この機械」
黒崎が指さしたのは、床に置いてある掃除道具だ。これはソファやカーペットなどの布にコーヒーなどをこぼしても、水の力でキレイに取れる超素晴らしいお掃除家電だ。
「この『そ』がついてるのは全部掃除関係だから、あっちの部屋ね」
「どんだけあるんだ」
私は結構掃除が好きで、便利アイテムを見るとついつい手を出してしまう。最近は、インテリアにも負けないデザインのものもあるから目が離せない。
黒崎は次から次に出てくる掃除アイテムにため息をついている。
「もう少し減らそうとか思わないわけ」
「思わないわけ」
「あっそ」
結構長いこと作業が続き、暑さもあって、私は汗を噴き出していた。ついでに呼吸も荒く、段ボールを抱えながら踏ん張りを利かせる。
「大丈夫か。体力無さすぎ」
「うるさい」
まともに運動していない、ブヨッた身体が暑苦しい。
テキパキ動く黒崎を見ながら、同じ29歳か?と疑いたくなった。いや、私が逆に思われるだろう。こんな29歳はいない、と。
黒崎が最後の『そ』段ボールを畳んだ時に、思いついたように言った。
「俺のとこ掃除頼むわ」
「はあ?」
「コレのお礼」
「んー、納得」
コンビニでおやつ休憩を済ませた後、今度は私が黒崎の部屋に行くことになった。
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