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さて、本日から本格的な業務開始だ。今日は、隣町のS市にある展示会のイベントがある。
途中の人事異動ということで、私は準備も何も知らないままぶっつけ本番のイベントだ。
完成予想図を片手に、モデルハウスの前にテントを組み立てる。
虎丸朝子さんが太いパイプを持ってきたので、私はそれを受け取った。これでも私は新宿店で鍛えられたのだ。テント張りくらい余裕である。
私は首に巻いたタオルを取り出し、顔を拭く。
「暑いですね」
「ええ」
「……」
「……」
私と彼女の間で沈黙が生まれた。
私と真樹ちゃん、そして虎丸さんしか女性はいない。少しでも仲良くなれたらと思っていたけど、彼女は会話はあまり好きではないタイプのようだ。年齢的に年上で、多分少し離れている。
丸フレームの眼鏡が印象的な虎丸さんは、ズレた眼鏡を戻して腰を伸ばした。彼女の一本に纏められた黒髪が上下に動いた。つられて私も、腰を一度元の位置に戻しておく。……30手前の身体だ。一応気を付けないと。
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